第923号 トヨタ、逆転パワハラ労災認定判決文の解析|2022|新SVC通信|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

新SVC通信

2022/01/11

第923号 トヨタ、逆転パワハラ労災認定判決文の解析

「人を大切にする会社」に関するトータル情報誌【新SVC通信】



トヨタ、逆転パワハラ労災認定判決文の解析



労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法が、2020年に施行され、
厚生労働省では労災と認定する基準に「パワハラ」の項目を新設しました。

この基準にのっとり、昨年9月16日に名古屋高裁で、
それまで労基署、地裁で労災とは認められないとしていた同一事案について、
逆転判決を下し、パワハラによる労災であったと認定する出来事が発生しました。
当通信でも第911号「注意喚起 流れが変わったパワハラ労災認定基準」で既報です。

この裁判は被控訴人であった国(豊田労基署)が上告をしなかったために
昨年10月1日に確定となりましたので、
今後、パワハラ問題が起きたときに労災であるか否かについての明確な基準となります。
このたび判決文が入手できましたので、どのようなことがいえるか解析します。

前提事実は一審を踏襲

一審は、2015年から5年間も月日をかけ2020年7月29日に名古屋地裁で請求棄却されました。
精神障害を発病させる程度の強度の労災があったとは認められなかったのです。
今回の高裁は控訴からおよそ1年という短期間で判決に至っています。
コロナ禍であるにもかかわらず超スピード結審となった理由は、
前提事実をそのまま一審の内容を引用したことにあります。

つまり起訴事実内容は一審と全く同一ですが、結論だけを180度ひっくり返したのです。
高裁は前提事実の末尾につけ加えると以下の3項目を補正しました。

・法律によるパワハラ防止対策の法制化
・認定基準(業務による心理的負荷評価表)の改正
 →改正心理的負荷評価表にパワハラは「29 出来事の類型」で新設された。
・認定基準の改正による運用上の留意点

争点整理

〇認定基準ついて
 控訴人(遺族)主張    改正認定基準で判断すべき、よって「強である」
 被控訴人(労基署)反論  改正認定基準は2020年6月1日以降に適用されるべき

ここは今回の裁判で大きなポイントになったところです。
起訴事実は2010年に起きた出来事であるから、
2020年の法改正は法の不遡及の原則が働き及ばないと被控訴人は主張したのです。

これについて、裁判長は、「新認定基準は,裁判所を法的に拘束するものではないものの、
精神医学及び法学等の専門家により作成された報告書に基づき策定されたものであって、
その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有し、
裁判所が精神障害に係る業務起因性を判断するにあたって、
参考にすることができない性質のものではない」と一蹴し、
公益性があると遡及適用に踏み込んだのです。

前提事実にあえて法改正、新基準、そして留意点を補正した意味がここにある訳です。

〇パワハラについて
 控訴人(遺族)主張    叱責は執拗であったというほかなく,その心理的負荷の程度は「強」である
 被控訴人(労基署)反論 「上司から,業務指導の範囲内である強い指導,叱責を受けた」にとどまり、パワハラには該当しない。心理的負荷はせいぜい「中」に相当

裁判所は、パワハラの所在については、
上司からの一連の言動についての心理的負荷は「強」に相当するというべきと
新基準に基づき労災と認定しました。

今回の判決文から、留意すべき重要ポイント

・同じ境遇にあった同僚が同じ時期に同じ理由で退職したことが労災認定判断に極めて加味されている
・心療内科医師の証言が重用されている
・人格や人間性を否定するような行為はなかったが、パワハラ認定がされた
・精神疾患発祥の6カ月前だけの事案だけで判断しない
・執拗の期間は本件では10カ月。その間、直属の上長1週間に1回、その上の上司2週間に1回、他の労働者の面前でさらし者のように大声での叱責があったことは社会通念の許容を超える

この基準が本年4月から中小企業にも適用されてきます。パワハラ対策まったなしです。

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