第1085号 人本経営の始め方 弐
2025.5.26
3)社員が健康になっていく施策を講じる
想いが固まったなら、次は必然的に行動です。経営者として腹が据わっても、それが目に見える風土へ変化していくまでは、当然、それなりの時間がかかります。よって、そこはすぐに期待せず、まず、会社は変わろうとしていると社員がわかる施策、すなわち、社員が健康になっていくための施策を講じていきましょう。貧乏工場だった伊那食品工業を任された塚越寛さんは、牛乳1本の配給と休憩時間におやつ代500円の支給から始めています。出来ることから取り組んでいくのです。
―ヒグチ鋼管の事例―
幸せ軸に舵を切った樋口社長は、矢継ぎ早に次のような施策を講じていかれました。
- 有給休暇取得を推奨(制度より使える風土)
- 社員食堂で昼食と給食費補助制度(会社負担160円、自己負担210円)
- 子供手当(5000円/人)
- 非喫煙手当導入(5000円/月)
- 結婚祝い金(3~5万円)
- 出産祝い金(1人目10万円・2人目20万円・3人目30万円)
- 永年勤続表彰実施(10年目5万円・20年目10万円・30年目30万円)
人を大切にしていきたいという思いを手当てや補助で形にしていくのは、人本経営実践初期の段階では効果を発揮すると本事例で確認できました。また同時に、あらゆる階層の社員との対話会を増やし、さらに家族へ社内報の郵送や配偶者へ感謝(盆暮れ、誕生日に贈答品供与)も実践。また積極的に社員を外部の学びの場に派遣することも始めていかれました。
4)幸せ軸の経営参謀をおく
業績軸から幸せ軸への経営革新は、発想の転換が不可欠になります。このため、正しく幸せ軸の経営を導く知見のある経営参謀をおくことが極めて重要です。それはすでに人本経営の実践に功を成した経営者でもかまわないし、外部の専門家でもよい。例えば、塚越寛さんの書籍を傍らに添え、経営判断の際に拠り所にしていくことでも力強い参謀となってくれることでしょう。外部の専門家を選択する場合、間違っても「ジョブ型雇用」を推奨するような業績軸のコンサルタントやシンクタンクを招いたり、影響を受けてはいけません。
―ヒグチ鋼管の事例―
樋口社長は弊社を参謀に選んでくださいましたが、その理由についてこう答えられています。
「選んだというより、他に選択肢はありませんでした。未だに小林先生の他に経営に関して指導を仰ぎたいという人は出てきてはいません。当社はコンサル料を目的に近づいてくる経営コンサルタントとは接点がないし、業績軸で人的資本経営をうたう話は多いかもしれませんが、私たちはそこにアンテナを張っていません。小林先生とは出会うべくして出会ったご縁だと思っています」
5)人本経営を学ぶ
まず経営者がしっかりと人本経営を学ぶ。そして、どんなことをしていけばよいか明確に腹落ちさせていきます。次いで右腕、左腕、そして次世代リーダー、さらには全社員へと学びの場を増やし人本経営を浸透させていくのです。弊社が主催する人本経営実践講座では最も手っ取り早く人本経営を学ぶことができ、どうすればよいかその実務が手に取るようにわかります。講座に来ていただく時間が捻出できないのでしたら、セカンドベストは拙著「パワハラがない職場のつくり方」(アニモ出版)を読了していただくことです。タイトルはパワハラ~となっていますが、8割は最新の人本経営の実践法について論じています。これを読んでいただければ、どんなことをしていけばよいかよくわかるでしょう。
―ヒグチ鋼管の事例―
ヒグチ鋼管では2016年に樋口社長と右腕の幹部の方が人本経営実践講座大阪2期生として学びを始められ、以後、毎年幹部や次世代リーダーの社員を3名前後、人本経営実践講座に送り出しています。それは今年で10年となりました。最も全社に人本経営を浸透させる確実な方法を選択されているといえるでしょう。(以下、次号)
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