第844号 胸騒ぎのESG投資|2020|新SVC通信|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

新SVC通信

2020/05/25

第844号 胸騒ぎのESG投資

「人を大切にする会社」に関するトータル情報誌
新SVC通信 第844号



胸騒ぎのESG投資


前号でアフターコロナの世界では、SDGsがメインストリームになり、抜群の親和性をもつ人本経営を実践し成功している企業が社会の牽引役になっていくと予測しました。確実にそうなっていくことだろうと日に日に確信を深めています。メディアに乗りやすいので、コロナ災禍以前のように、再びSDGsという言葉が躍り出し、それにいろいろと紐づけされて社会のあり方が定まってくるようになるでしょう。

けっこうなことですが、この際に、留意しなければならないことがあると感じています。

■目的は何であるか、この原点を常に回帰する

それは決して目的を喪失してはならないということです。何のためのSDGsなのかという原点です。人本経営を理解して、前進しているうちにSDGsという考え方に出会って、自然に経営に取り組んでいく場合には、さほど心配していません。しかし、世の中の動きを機敏に察知して、これからはSDGsだと経営に取り入れて、人本経営的な会社づくりに取り組んでいく企業に陥穽が潜んでいるケースが多くなるのではないかと危惧しています。

SDGsに関する情報を収集していて違和感を覚えていることがあります。それは、「なぜこれほどSDGsが注目されるようになってきているかというと、そこにお金が集まる、しかも巨額な資金が動くようになってきたので、これからはSDGsから目を離せない」という指摘です。

実際、ESG投資という言葉が、SDGsとセットでリポートされている記事を目にすることが多くなりました。ESG投資のESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の頭文字を組み合わせた造語です。この3つの基準を使って企業活動を分析し、投資判断をすることをESG投資といいます。企業価値を判断する際に「業績・財務」だけではなく、「環境・社会・企業統治」といった非財務情報も評価に取り入れていくことです。その背景には、企業が短期的な財務評価に固執するあまり、無理に事業展開を強行して、「環境汚染・労働問題・不祥事」といった事態を引き起こし、その結果、企業経営に致命的なマイナス影響を及ぼしたといった過去があり、その反省から「ESG」の考えが普及していきたといわれています。

■業績軸からの逸脱をしなければ、それは人本経営ではない

短期の業績でなく、企業としてなしていることが長期視点に立ち、持続可能なサステナブル経営を実施しているかどうかを投資判断にするということは、まさしく時流に合っていることは間違いありません。よって注目されてきていることは理解できます。

しかしです。何のための投資なのかという視点がどこにあるかを、はっきりと認識しておくことがとても重要です。関わるステークホルダーを近い順から幸せを増大していこうと志向する人本経営をベースにしている場合には、そうしたESG投資のような話があったとしても、泰然自若と受け止めて、それによって出資金が増大するとしても、自分たちが目指している幸福増大に寄与するものでないと判断出来たら安易に乗ることはないでしょう。実際、毎年高い経常利益率を出し、自己資本率を高め続け安定した財務を実現している人本経営成功企業は、現在の株式市場に見向きもせず、伊那食品工業はじめ、ほとんどの会社は上場をしていないことからも、このことは予見可能です。

問題は、今後です。お金が集まるから、SDGsを打ち出し人本経営的な会社づくりをしていくという事例が増えてくるようだと、本末転倒ですし、それは相変わらず業績軸の世界であって、幸せ軸ではないのです。

なんとなく胸騒ぎがします。新興のスタートアップ企業が、形は人を幸福にする会社づくりをしているものの内実がともなっていない経営をする企業が世の中に増産してこないかと。金融会社がSDGsに対する社会的関心の高まりをふまえて、前のめりにESG投資を打ち出している雰囲気がプンプン漂っていて、なんともいえない面映さ、居心地の悪さを感じてしまうのです。ホンモノでないと残りません。

今、真に業績軸から幸せ軸へ、世の中を転換できるかどうか、大きな分水嶺となっています。そこにも社会に人本経営成功企業を増やす大いなる意義があると心新たにしています。


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