第860号 菅政権の中小企業政策に物申す
2020.9.23
菅政権の中小企業政策に物申す
菅政権がスタートしました。基本、安倍政権の路線を引き継ぐとされていますが、この先、どのような手腕を振るわれるのか注目です。
そんななかで気になる記事が目にとまりました。
記事から抜粋します。
「菅首相が中小企業政策の中核をなす中小企業基本法の見直しに言及、中小企業政策のあり方はより一層、再編・成長志向へと歩を進めそうだ。(中略)先進国の中で低いとされる最低賃金について菅首相は全国的な引き上げを唱えている。最低賃金の引き上げによる中小再編を主張する、小西美術工藝社(東京都港区)社長のデービッド・アトキンソン氏と菅首相は親交がある。「菅氏はアトキンソン信者」(経産省幹部)といい、こうした側面から再編を促す可能性もある。」
菅首相が経済政策で影響を受ける可能性があるとしているアトキンソン氏はどのような主張をしているのでしょうか。2020年3月の東洋経済の取材「「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ」では、かなり過激な発言をしています。
以下、抜粋します。
「小規模事業者より中堅企業のほうが生産性は高く、中堅企業より大企業のほうが生産性が高いことを確認できます。これは世界中で確認できる、動かしがたい事実なのです。(中略)日本では、全企業の99.7%が中小企業です。これらの中小企業をひとくくりにして「日本の宝だ」というのは、究極の暴論です。冷静な目で見ると、中小企業は日本という国にとって、宝でもなんでもありません。宝なのは、大企業と中堅企業です。特別な理由がないかぎり、小規模事業者や中小企業に「宝」と言えるような価値はありません。将来、中堅企業や大企業に成長する通過点としてのみ、価値があると言えます。永遠に成長しない中小企業は、国の宝どころか、負担でしかないのです。」
■アトキンソン氏の主張こそ暴論
要は、企業は小企業から中堅、大企業へ成長していかなければ存在している意味がなく、そうでない企業は害悪だと断じているのです。
激しい違和感を覚えました。数値で対抗するならば、当通信第848号で指摘したとおり、日本は世界一、長寿企業を輩出しているのです。
以下、引用します。
「世界で最も100年企業が多いのは日本の3万3076社であり、41.3%を占めています。創業200年まで絞ると、1位は変わらず日本で、1340社65.0%まで上昇します。(中略)東京商工リサーチの「老舗調査」によれば、売上高は「5億円未満」が2万2,225社(同67.2%)と、小規模企業が全体の約7割を占めたということです。従業員別では、なんと100年企業の7割が「20人未満」となっています。300人以上の100年企業はわずかに3.3%にすぎません。」
企業経営は何のために世の中に存在するものなのか、この問いかけに対する答えは人本経営の伝道をしてきて、疑いようなく「関わる人々の幸福の増大のため」であると確信しています。
ですから、末広がりによくなっていく「いい会社」を年輪を刻みながら持続させていくことこそが命脈といえます。そのため、伊那食品工業をはじめとする人本経営実践企業は、経営には終わりはないとして急成長を戒めながら前進しているのです。その結果が、上記の長寿企業最多輩出国という現実になっているのです。永続を実現し続ける日本中小企業は宝そのものです。それを全く無視して生産性だけをフォーカスして「中小企業は無価値」というのは、全くもって賛同できません。
アトキンソン氏は政策提言として、観光立国(インバウンド)、カジノ立国(IR)、最低賃金強制引き上げと中小企業淘汰、中小企業基本法の改悪を掲げているとされています。
コロナ禍で、よもやインバウンドやカジノはないと思いますが、日経新聞によれば、菅氏は中小企業の再編を促し、競争力強化へ法改正の検討に入っていると報じられています。安倍前首相が、大阪の天彦産業へベンチマークに行ったように、統計という机上で思考するだけでなく、人を大切にする経営で一灯照隅を実現して燦然と輝く、小さくともいい会社に触れるべく、ぜひとも現場視察をしたうえで中小企業政策を講じていただきたいと切に望む次第です。
コロナ禍で傷んでいる中小企業をさらに追い込むような愚策をしては、あっという間に政権の屋台骨は揺らいでしまうことでしょう。慎重を期してほしいものです。
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