第852号 人本経営のルーツ探訪Ⅲ 石門心学|2020|新SVC通信|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

新SVC通信

2020/07/20

第852号 人本経営のルーツ探訪Ⅲ 石門心学

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新SVC通信 第852号



人本経営のルーツ探訪Ⅲ 石門心学


人本経営のルーツとして、三方よしの近江商人、報徳思想の二宮尊徳を考察してきました。そのふたりに少なからぬ影響を及ぼしたといわれているのが、「勤勉」「正直」「倹約」を説く石門心学です。

石門心学は、尊徳よりも100年前、徳川綱吉の時代に生きた儒者、石田梅岩によって打ち立てられ、その後門下生により世に広められた思想です。

先も立ち、我も立ち

梅岩が生きた江戸時代、商人はややもすると拝金的で、蔑視される賤商論が跋扈していました。そうした風潮のなか、商人が品物を売買するのは、世の中がうまく回っていくのを助けていると喝破し、商人の売買の儲けは、武士の俸禄と同じであると主張しました。ただし、商人は、先も立ち、我も立つ商いの倫理をもたなければならないと説いたのです。

曰く「商いは常に相手があって成り立つ。売り手と買い手があるように、作る人がいれば使う人もいる。他を利する心、すなわち利他心があってこそ、私利も確保できる。優れた品質と適正な価格、その上で正当な利益の確保など、双方が立つことが商人の志す道」と商人道を高らかに掲げたのです。

これが、近江商人の三方よしにつながっていった訳です。徳川吉宗の時代、町人に道徳意識を与えることが急務とされ、石門心学がその任務にあたったこともあり、幕府の保護もあって、庶民のみならず、大名や上層武士にも浸透し、最盛期、その学問所たる心学講舎は180か所以上に達したといわれています。

石門心学の要諦 「勤勉」「正直」「倹約」

商人の道は、私欲を抑え、家業に精を出すこと、「勤勉」に始まるとしています。また、この道を知るため、商人にも学問が必要であると主張します。さらに、商人たちに要求されるのは「正直」を守ることだとし、商人たちが利益を得るのは必要であるが、二重に利益を取り甘美な毒を食らわば自死へ堕ちていくことも多いから、暴利をむさぼるなかれと説きます。

不正をすれば、「天知る、地知る、我知る、人知る」のだから天罰を受けるのは必定としています。

「倹約」は、勤勉や正直と並んで、人が心得ておかなければならない美徳で、私欲によって自分が行うことを曲げず、心を正しく保つための心得であるとし、次の4つが重要と諭しています。

・世間のために節約する。2つを1つに、3つを2つに
・欲望を自制し本来もっている「正直な心」を取り戻すことの実践
・自然に存在するすべての物の本質を把握し大事にして最大限生かす
・お金は天の所有物。人が困っているなら、足りないところに融通しお金を社会に役立てる


致良知

さらに梅岩に影響を与えたといわれているのが、陽明学者の中江藤樹です。藤樹は致良知を説きました。

良知とは、人は誰でも天から与えられた美しい心、良心をもっているが、私欲によって曇らせてしまうので、絶えず磨き続け、鏡のように輝かせておく努力が必要で、その良知が明らかになれば、天と一体になって人生は安らかになると説きました。

良知にいたるための五事として藤樹は以下を示しました。

一貌 和やかな顔つきをし
二言 思いやりのある言葉で話しかけ
三視 澄んだ優しい眼差しで
四聴 人の話に耳を傾けて聴き
五思 思いやりのある気持ちを表す


日々善をなせば、日々悪は去り、昼が長くなれば夜が短くなるように善をつとめるならばすべての悪は消え去る。心を正す心学をしっかりおさめると、ふつうの人間が立派な聖人の境涯にいたるといいます。

梅岩の教えは、必ずしも新しく創出された思想や学問というわけではなく、日本の歴史に培われた伝統を引きつぎ生み出されたものであると考えられています。つまりは神道、仏教、儒教、陽明学などのいいとこどりをしているという訳です。人本経営もまた、天命と一致し永続を実現する「あり方」をこれまでの日本で育まれた豊かで確かな思想を取り入れ、形づくられてきた最新型の実践論といえるでしょう。

※本稿執筆にあたっては、『石田梅岩に学ぶ石門心学の経営』(田中宏司等編著 2019年 同友館)を参考にしました


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