いい会社視察記録

株式会社ヴァンサンカン


代表の石原美良子さんは、28歳まで働いたことがありませんでしたが、両親がこの世を去り、自分には何もない、このままの人生でよいのかと考え、もともと肌が弱かったこともあり、1977(昭和52)年に化粧品の販売の仕事を始めました。

親族や周辺からは、セールスの仕事なんてと大反対されての旅立ちでした。石原さんは自問自答しました。「化粧品って、世の中にいらないものなのか?」――そんなことはない、絶対に必要なものだと心を奮い立たせていきました。やがて一人のお客様が出来ました。

「お客様は奇麗になるために買ってくださったのだから、奇麗にして差し上げるのが私の仕事」と心して、毎週、毎週、教えに行ってあげたそうです。そのうち、そのお客様のご友人やご家族の方々が集うようになり、気づくと売り上げは新人でナンバーワンになっていました。

石原さんの行動原理はシンプルです。私がされて嫌だなということしない、されてうれしいと感じることをしようというものです。これは孔子がいう「恕の精神」であるといえるでしょう。

恕(じょ)…自分がされたくないことは人にはしてはならない、それが恕だ、と孔子は説いた。つまりは思いやりということである。他を受け容れ、認め、許し、その気持を思いやる。自分のことと同じように人のことを考える。そのことこそ人生で一番大切なことだと孔子は教えた

仕事を始めて6年が過ぎると、セールスの組織が出来上がっていました。いつの間にか「売るためのチーム」になっていました。でもそれは自分の思いとは違う、と石原代表は悩み、一人でやり直そうと決断しました。悩んでもぶれずに原点に立ち返るという信念があること、これは人を大切にする人本経営を形にしている経営者の共通の特徴のひとつですが、石原代表にもそのことが感じ取れます。

「10年余り化粧品の販売に携わってきて、お肌はおしゃべりで、その方の生活、人生が垣間見えるということを実感し、もっといろいろなことをしてあげたいと思った」と石原代表。化粧品によるスキンケアだけでは限界を感じていました。

そんな折、パリに行き、エステティックに出会いました。こういうものが松山に出来たら、みんな喜んでくれると夢が膨らみました。1989(平成元)年、私が通いたいサロン、そういうお店をつくると決めてオリジナルでエステサロンをオープンしました。1億円の借金をしましたが、それまでの化粧品でお付き合いいただいた皆さんに声をかけると、口コミで評判は広がり、一切コマーシャルはしなかったけれども、1年も経たないうちにサロンは連日、ご予約のお客様で一杯になっていきました。

2店目をオープンし、多店舗化をしていきました。事業は急成長していきましたが、落とし穴が待っていたのです。一気にいこうという未熟さに加えて、バブル経済が崩壊するという未曽有の社会経済状況に見舞われ、資金繰りはたちまち苦しくなりました。しかも、頼みにしていた銀行からは追加融資も受けられず、自転車操業を余儀なくされるようになってしまいました。

この時の教訓から、借り入れに頼るのではなく、現金ビジネスを心がけるようになり、その後の無借金経営という道へつながっていきましたが、起こることは必然、次のために絶対必要と受け入れていく「ピンチはチャンス」という精神が身を救ったと石原代表は回顧しています。

この頃、同時にスタッフとの人間関係にもひびが入っていました。石原さんは、一緒に働くメンバーに対して、何で出し惜しみするのかと愚痴ることが多くなっていたそうです。ヤル気のある人にしか目が向かず、それぞれのメンバーの個性を活かしきれていなかったといいます。今でこそ、大事なのは「人」と言い切れるものの、当時はリーダーとしてのキャパシティがなかったと振り返ります。気がつくと、スタッフが楽しそうでない、そして、お客様の表情がよくない、なにより、わたしが通いたい店になっていないということに愕然としました。

新SVC通信 第817号(2020.01.20)より


もう一回やり直そう。石原代表は、急成長の結果、理想とかけ離れてしまった現状を見つめなおし、断腸の思いで旧店を閉鎖し、一店舗体制にすることを決断しました。多店舗化2年半後のことでした。もう一度、「恕の精神」で一人ひとりのお客様に向き合い、わたしが通いたい店にしていこう。大切なことは、この仕事が世の中に必要かどうか。そして楽しくなければつまらない。「ねばならない」で動き、周りをしばっていたことを反省し、社員と思いを一つにするのは大変だけれど、人に喜んでもらうことで、いちばんテンションが上がる自分を取り戻すために原点回帰していきました。

もっとしてあげたい、売るではなくて「これがあるといいね」という気持ちで仕事をしていくとお客様はすごく安心、そして商品に対して信頼してくれる。そして、それはそこで長時間働くスタッフたちにとっても心地よい空間になるはずと考えました。スタッフ一人ひとりが自分の力でリセットできるような暮らしがおくれる職場は、人が育つことにつながる。それは、いい商品づくりにも好影響が及ぶ。形だけの成功を投げ捨てて、社員と分かち合い、うそがないこと、言っていることとすることが一致するよう行動していきました。正直でいよう、間違いは謝る。このことを伝えていったら、スタッフから伝わってきたといいます。まさしく本気の行動が周りの共感共鳴を呼び起こしたということでしょう。

再び事業が順調になった頃、フランチャイズで全国展開しないかという話が舞い込んできました。並みの経営者なら身を乗り出すところ、年輪経営の重要性を身をもって認識していた石原代表は揺るぎない行動を実践します。身の丈でない儲け話には首を縦に振らない自分を取り戻していたのです。儲かったとしても、またあの急成長のころのつらい思いや楽しくない日々を思い出し、自分がやりたくないと感じられたといいます。この時、心がどうありたいかが大事だと深く感じたといいます。

どんなに「いい会社」をつくったとしても、毎日毎日いろいろなことが起きてきます。大切なことは、日々、失敗もいっぱいしながら、皆でどうしたらいいか、次はどうしていこうと相手を思いやっていくことだと体験的に語られています。そうして一人ひとりの心の許容を広げていく場数をこなしていくことで組織風土に磨きがかかってくるのです。悩んでも人本で進んでいくことにぶれない法則、これは本当に重要な心がけであると改めて感じさせてもらいました。

全員が女性社員だけの職場の宿命といえますが、一人またひとりと産休・育休に入るスタッフが増えていきました。どうやりくりしてもシフトが回らない状況になっていきます。このまま営業を続けていったら、現場がもたない。石原代表は、損得勘定はもちろんしましたが、残業はやめようと決め、行動しました。お金をたくさん使ってくれる客層は多いけれど、夜9時までの営業時間を7時までにすることにしたのです。お客様には申し訳ないけれど、一人のスタッフが抜ける方がよくないと、人を大切にする軸で判断した結果でした。この時のことを石原さんの右腕、そして支援型リーダーとして活躍する川口悦子さんは次のように語ってくれました。「石原代表は、スタッフが不安になる前に行動している。だからスタッフが会社のことを思い行動するようになっている。営業時間短縮の件もそうで、皆で話し合い、協力し合おうと団結して、週一、金曜日はナイトデイとして9時まで営業したいといい行動してくれた。朝1時間早く開店するといったアイデアも出し合って、失うはずだった7割のお客さんをカバーした。」

毎日いろいろなことが起こっている、でもそれが上がってくることがいい状態という川口リーダー。人の問題は、相手の立場を慮り、「何ができるかな」「どうしたらいいかな」と心の状態を同じにして考えているといいます。それは相手が大切にされているからこそ同じになれるのだと感心させられました。

最後に、人本経営を志す人たちへ、石原代表からいただいたメッセージは暖かく強いものでした。

「当たり前の水準を高くする。こちらの出番がもっと多くなるように寄り添える機会を研ぎ澄ます。なくてはならないホンモノになる。そしたら面白い。時が変わっても、人が変わっても、選ぶことをしよう。神様が応援したくなる方へ。」

新SVC通信 第818号(2020.01.27)より



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