いい会社視察記録

巣鴨信用金庫


ご好評をいただいております「理念経営実践企業の研究シリーズ」の第13弾です。今回は、とうとうここまで理念経営の波が来たか、という感をもった企業を紹介します。なんと金融機関で「人本主義」をベースにした本来あるべき経営人事を実践している企業を認識しました。それは誰もが知っている『巣鴨信用金庫』さんです。理念は、金融機関ではなく金融ホスピタリティ業を目指そうというものです。金融系でホスピタリティを標榜するとは驚きです。理事長である田村和久さんの考えは、ホテルやレストランといった非日常の場面だけではなく、生活に密着した日常での感動的なおもてなしこそ大切であるとして、「喜ばれることに喜びを」をモットーに掲げ素晴らしい経営をなさっておられます。どのようなサービスがされているのか、いくつかご紹介していきましょう。

巣鴨といえば、おばあちゃんの原宿と言われるくらいにご高齢の方が往来する街であります。その巣鴨地蔵通り商店街の入り口に巣鴨信用金庫の本店があります。入口には時計のポスターが貼ってあります。時間は9時5分前となっています。おじいちゃん、おばあちゃんは朝が早いです。いつも何人かのお客様が9時開店前に入口に並んでいます。そこでお待たせせず開店前でも店内にお通ししようということで「8:55オープンサービス」が始まりました。

また毎月4のつく日は、巣鴨地蔵通り商店街で縁日が開催されます。ご高齢の方はトイレが近くなりがちですが、付近に公衆トイレが少なく縁日のときには絶対的にトイレが不足してしまいます。そこで巣鴨信用金庫さんでは、本店を開放し、さらには休憩所として提供することを始めたのです。題して「おもてなし処」サービス。自社ブランドのおもてなし茶までつくり、地元メーカーのお煎餅やお饅頭などを振る舞って、ふれあいの場として提供しています。なんと若手落語家を招き演芸会まで開催しています。ここまでされれば、お年寄りの心をとらえて離さなくなること請け合いです。事実、年金の口座を巣鴨信用金庫に変える方が続出しているようです。

また、金融機関の窓口は15時で閉じるというのは常識ですが、ここは15時以降も職員が待機して午後7時までフェイストゥフェイスで接客をしているのです。これならば家族もおじいちゃん、おばあちゃんが振り込め詐欺にあう心配がなくなり安心です。さらに「どうして自分のお金を引き出すのに手数料がかかるのか」というお客様からの声があがると、ATM入出金手数料ゼロというサービスを実現させています。平日はもちろん、土曜も日曜も祝日もいつでもタダで利用することが出来るのです。当たり前のことですが、世の中はその当たり前のことが当然のように無視されている風潮がそこかしこに存在します。そんな中、こんな心暖まるサービスは確実にファンを生み続けることでしょう。

さらに驚くことは、テラー(窓口係)に毎年10万円のホスピタリティ経費を与えているのです。ホスピタリティに役立ち、お客様の困っていることの手助けになったり、喜ばれたりするようなことにテラーの意思で使っていいという権限を付与しているのです。まるでリッツカールトンホテルです。このような取り組みをしていると感動的なエピソードがたくさん誕生してきます。そこで、「ホスピタリティ・アワード」という報奨制度を設け、「お客様に喜ばれた職員」を表彰しているのだそうです。表彰状は40人いれば40通りにつくられ、現場の職員の労に報いるために手間を惜しまないということです。感嘆しています。どれだけお客様の笑顔を創造していることでしょう。そして、それを自らの喜びと職員は感じているのです。その意味が社是「喜ばれることに喜びを」に込められているという訳です。


巣鴨信用金庫さんを研究していると他の理念経営実践企業と符合する特長がいくつもありますが、取り立てて衝撃的だったのは、金融機関なのに目先の利益を優先しない経営方針を明確に打ち出しているということです。金庫都合ではなくお客様が喜ぶ方を選択するという基軸がピシッと貫かれているのです。ですからATMゼロも実現したという訳です。田村理事長は利益を最優先に考える企業は利益という目的を達成した時点でその存在意義を失うと考え、忠実に理念に基づいた経営を実践しているのです。その他にも理念経営実践企業として特長が見られる点を挙げてみましょう。

巣鴨信用金庫さんの直近の業績ですが、業務純益は前期比6億円増加の73億円を計上し、純利益の増益傾向を維持しています。素晴らしいとしか言いようがありませんが、「(理念経営を)いくら説明しても反発は続いた。反発は経験年数・勤続年数が長いほど大きかった。1年、2年…と取り組んでいるなかで徐々に成果が表れてきた。制度を考えることは簡単かもしれないが、徹底して定着させ、そして成果に結びつけるためには相当の覚悟が必要。」ということです。ローマは一日にしてならずということですね。でも信念さえぶれなければ必ず実現できると勇気づけられます。

新SVC通信 第293号(2009.06.22)より



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