いい会社視察記録

伊那食品工業株式会社


当通信でもすでに紹介していますが、「いい会社をつくりましょう」を社是にしている伊那食品工業について知れば知るほど元気が湧いてくる気がします。会長である塚越寛氏の同タイトルの著書を拝読しました。随所に忘れかけていた、しかし、失ってはいけない心やうん蓄のある考え方が宝石箱のようにちりばめられていると感じました。

そうしたことを宗教家や学者が言うのであればさして驚きはありませんが、この日本で中小企業の経営者が語っていることに新鮮な感動を覚えてしまうのです。しかも、理想だけはよくても結果が出ないのでは、現実は甘くないとなるところですが、50年近く著書に書かれた信念に基づき会社経営を続け増収増益を達成し続けてきたということですから、その説得力は鋼のように揺るぎがない強さで迫ってきます。当通信の読者の皆様には、ぜひ一読をお奨めいたしますが、なかなか忙しく時間がないという方もおられることでしょう。せめて当通信をお読みいただいている時間に一端でも感動を共有してもらいたく、「感じ入る言の葉」をご紹介してきたいと存じます。

経営理念とは何か、ということについて、これ程わかりやすい例えを用いて説明している文献をみたことがありません。著書を読んで感じるのは塚越会長が比喩の達人であるということです。比喩をうまく使うこと、これはいいコミュニケーションをするためには非常に重要なポイントかもしれません。ところで、社員全員が同じ方向へ向かうということになると個性が埋没してしまうのではないかという指摘がされるところでしょう。これに対しては以下のように答えられています。

なるほどこれもまた絶妙の比喩です。例えば、何かのテーマについて問いかけたとき、ここの社員は誰と話していても、あるべき姿や考え方がぶれていない状態になっていようということです。しかし、これを徹底させることは容易なことではありません。伊那食品では「いい会社」であるために、売り上げや利益の大きさよりも、会社が輝きながら永続することにつとめると経営方針を打ち立てています。

これは強烈です。たった4項目ですが、何を最優先にして行動しなければならないか、実に端的に感じてしまいます。これを徹底しているならば、良心が社員に芽生えてくることは確実であると考えられます。そして、それを会長自らが率先垂範しているだろうことが次の言葉からうかがえます。

繰り返しますが、世間知らずの学生や思想家の言葉ではありません。きったはったの世界で50年間も生きてきた中小企業の社長が語っているのです。驚きを隠せません。しかし、それが実現できることを塚越会長は身をもって知らしめているのです。こんな企業が増えてくれば、わが国そのものが輝いてくるに違いありません。黄金伝説ジパングが現実のものになることでしょう。次号も引き続き伊那食品ワールドに触れていきます。

新SVC通信 第234号(2008.04.21)より


前号に引き続き、伊那食品工業で実践されている経営人事から、学び、そして、それを取り入れ、今よりも現状をいい方向へ向かわせるためのナビゲーションをさせていただきたいと存じます。

経済学では、企業の目的は「利潤の極大化」であると教科書に書いてありますし、資本主義であるわが国で会社を経営する社長やそこで働くビジネスマンもおよそこれには疑いをもつ人間はいないのではないかと思われます。しかし、伊那食品工業の会長である塚越会長は、ここに他とは違った明確な理念を打ち立てられています。

「いい会社をつくりましょう」という社是から従業員を幸せにする会社でなければならないという思いが端的に伝わってきます。その会社の社員でよかったと思うときはどんな時でしょうか。それはやりがいがあることでしょう。自分が必要とされていると意気に感じ、そして、やった仕事が社会に役立っていると心から実感できる達成感が満たされたとき、何物にも代えがたい満足感がえられるのだと思います。

給料がいい悪いというのは、いわゆる衛生要因ですから、いい仕事をしたとしても、これではやっていられないという低さでなければ、そこに不満は生じてはこないと考えられます。ですから、それなりの報酬を支払ってあげられるように利益は確保されなければなりませんが、それは手段であって目的ではないという考えを貫かれているのです。そして、目的と手段の取り違えを起こさぬように、これまた、他にはみることのないことを実践しています。なんと数値目標を掲げないというのです。

ここまでくると経営者としての凄みすら感じてしまいます。数値目標をもたない会社など、企業経営を教えるビジネススクールでは絶対に存在しないモデルなのではないでしょうか。しかし、何度も言いますが、寒天づくり一筋に同社は48年増収増益を達成し、全社で170億円、従業員1人あたりにして4,000万円超という堂々たる売上実績を上げているのです。

これが実現できているのは、健全な事業活動をやれば利益はついてくるという信念に揺らぎがないからでしょう。そして、その信念は、社員の能力を最大限に向上させ、最高のパフォーマンスを発揮させるために人事マネジメント、労務管理を徹底しているという自信と社員は応えてくれるという厚い信頼があるからに違いありません。

同社を取り上げた1時間ほどのドキュメンタリーDVDを観たとき営業マンの活動シーンが出てきましたが、本当にノルマがないのです。営業マンは、接着剤を製作している工業会社に寒天を素材に出来ないかと提案をしますが、何度も相手担当者と協議をして、相手が納得して望む商品になるように徹底的に折衝していきます。今やっていることが今年成果にならなくてもいい、数年先に実を結べばいいという姿勢がみてとれました。これが伊那食品工業なのだと感じました。提案された側は信頼を深めていき、やがて、こう思うことでしょう。『ここまでしてくるとは、いい会社だな』と。

これも極めて真理をついた心にくる示唆と感じます。確かに、機械は設計された以上のことはできませんが、人間は時として不可能を可能にすることをしている訳です。人数が多く最新の設備を導入していたとしても不満が爆発してやる気のない従業員ばかりになってしまっている大企業なら、志気に満ちて活気あふれる中小企業のほうが勝つチャンスがあるかもしれないということに気がつき勇気が湧いてきます。

こう考えると、今、いる社員がとても大切に思えてきます。本来もっているやる気を十分に引き出せているのか、輝こうとしているのに磨いてやることをしていないのではないか、実はすごいアイデアや提案をしてきていたのにちゃんと聴き入れていなかったのではないか…。

そう感じていただけるなら、今から、いい方向に会社や組織が変えていくことができるかもしれません。こう塚越会長は語っています。

どうせ、うちの会社や組織は変わらないと諦めないでください。少なくとも、自分が変わることはできるのです。自分が変わることで周りを変えていくことへのチャレンジをすることもできます。奇跡は起きるのではなく創ることができることを伊那食品工業から学びました。いい会社、いい組織をつくっていきましょう。

新SVC通信 第235号(2008.04.28)より


■伊那食品工業株式会社(塚越寛会長)
長野県にある寒天メーカー。1965年創業。資本金9,680万円/社員数405名(男203名、女202名)/売上高174億円。48年間増収増益を達成。国内マーケットの80%、世界で15%のシェアを誇る。

※参考文献
『いい会社をつくりましょう』 伊那食品工業株式会社会長 塚越寛 著


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