いい会社視察記録

株式会社坂東太郎


理念経営実践企業研究シリーズで初めて外食産業を取り上げます。外食産業は、過当競争の中で景気悪化の影響を受け逆風となっていますが、右肩上がりの業績を続けている快進撃企業があります。茨城県古河市に本社があり、北関東を中心に和食ファミリーレストランを60店舗経営している株式会社坂東太郎です。やはりまっすぐ理念経営を実践しています。どのような取り組みをしているのか早速研究してみることにいたしましょう。

坂東太郎という社名もユニークですが、掲げる経営理念がまた強烈です。社是はなんと「親孝行」としています。青谷洋治社長は、この理念の意味をこう説明しています。

感謝の大切さ、与えること、そして主体的な行動という理念経営に必要不可欠で重要な心構えをわかりやすく、かつインパクトをもって説いていて、なかなか見事な意味付けだと感心します。この理念の実践が新入社員の初給料支給時に行われています。新入社員は、感謝の手紙を添えて給料を両親に手渡しすることが同社の慣例になっているのです。ここまで徹底して最初から入っていくと新人は否が応でも理念を意識せざるを得なくなることでしょう。

青谷社長は語ります。

従いまして、最終的な判断基準は常に、コストや効率ではなく「関わる人が幸せになれるかどうか」に置くことをポリシーにしているということです。その考えが具体的に以下のような点に反映されています。

一見当たり前のことに感じますが、店本位で店舗づくりするのではなく、お客様の居心地の良さを最優先にしてゆったりとくつろげる空間や非日常的な外観の演出など費用をかけてしっかりとした店舗にしています。これは安易に店をスクラップアンドビルドをしないという意思表示であり、地域のお客様に末永く活用してほしいという思いを込めているといいます。

料理には地元産の食材を中心に活用しています。米も毎日店舗内の精米機でその日に使う分精米しているといいます。地産地消にこだわるのは地域の農家と一緒に成長したいからということですが、自分の会社だけが勝者になるのではなくステークホルダーとWIN-WINの関係性を構築していくことにも余念がないという経営姿勢がうかがえます。

安全、安心で高品質の食事を提供することは、お客様のためだけではなく働くスタッフの誇りにつながり、スタッフが誇りを持ち働きがいを感じることでサービス品質が向上し、お客様の満足度も高まる、と丁寧な経営姿勢の理由を明かします。理念経営の原理原則を教科書通りに展開しています。

素晴らしい経営をしている坂東太郎さんですが、創業後まもなく訪れるあのバブル時代に大きな挫折を経験します。

青谷社長は、会社を大きくすることが社員のためになると信じて拡大路線をひた走ります。売上は面白いように増えたそうです。しかし、店舗を5店舗まで拡大した頃から、社員が次々と辞めていくようになり、朝出社すると社長の机の上に辞表が乗っているという日が何日もあったということです。対策を打っても効果がなく労務倒産するのではないかととても悩んだそうです。万策尽き、夜仕事を終えてから幼い頃に亡くなった母親の墓参を繰り返すようにしたのだそうです。

3カ月もそういう日々が続いた頃、『働いている人が幸せでないから辞めていく。みんなを幸せにしてあげなさい』という母親の声が聞こえてきたそうです。そこで、売上の拡大ばかりを優先させ理念を忘れていた自分を冷静に見つめ直すことが出来たのだそうです。その後、全従業員を集めて「これからはみんなと夢を共有しながら全員が幸せになれる会社を目指す」と詫びました。

まるでバグジーの久保社長と同じエピソードであることに驚いてしまいますが、ここが青谷社長のターニングポイント、理念が生まれた時でした。完全に理念経営へのスイッチが入ったのです。この時から年3回、社員と膝を交えてそれぞれの人生を本音で語り合う「社長塾」がスタートしました。

「語り合うだけでは「全員の幸せ」の実現は難しい」と全員が目標を共有し今年1年の成長への決意を新たにする経営計画の策定を新年度の2カ月前から準備しています。1月下旬には全社員と取引先までを一堂に会して「事業戦略発表会」を1日がかりで行っているそうです。一人ひとりが掲げた目標を達成することで個人、会社、地域の幸せに近づくことができるという確信を参加者が共有できるため大変に盛り上がる一日になるようです。  

以上、坂東太郎さんの取り組みをみてきましたが、前号まで検討してきましたモチベーションを高めるための方策(相互信頼、価値ある経営、やりがいの醸成、何でも言える組織風土、経営情報の公開、経営計画への参画、明確な企業目標の明示など)が取り込まれているということに気づきます。なるほど業績も向上する訳です。

新SVC通信 第309号(2009.10.19)より



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