第909号 45歳定年制の深層にあるもの

第909号 45歳定年制の深層にあるもの

45歳定年制の深層にあるもの

サントリーホールディングスの新浪剛史社長の「45歳定年制」導入の提言が、炎上状態になっています。
サントリーは、今年、日本でいちばん大切にしたい会社大賞に輝いたこともあり、
当方にも「人を大切にしていないこの人事はどういうことなの」
という趣旨の問合せがきていますので考えてみました。

サントリーの経営人事施策として話した訳ではない

前後の発言と合わせて考えると、
やはり諸外国に比べ低いと言われる労働生産性を向上させるために、
日本的経営として特徴づけられてきた年功序列、終身雇用制に対する疑問を呈して、
実力主義型の人事制度へとシフトしていき
日本企業の世界での競争優位性をつけていくことの必要性を
ご自身の思想として述べていると受け止めました。

人を大切にする風土を培ってきたサントリーで、これを導入しようということではありません。
ローソン前社長だった新浪氏は、そのキャリアから典型的なグローバリストだと推し量れます。
佐治会長と新浪社長は、慶応大学出身で、いわゆる三田会つながりで親交があり、
創業家の鳥井一族に引き継ぐまでのリリーフとして、経営を託されたようです。

「サントリーも(創業して)115歳。官僚化が進み、やんちゃボーイ、やんちゃガールが少なくなっている。
新浪さんは“やってみなはれ”の人。グローバル化の推進と新しい空気を吹き込んでほしい」
と佐治会長は語っています。

巨額を投じて、米国のビーム社を買収した直後に社長に就任しています。
文字通り、サントリーのグローバリズム推進役として起用されているのだと考えられます。

グローバリズムは是か非か

そうした背景をふまえると「45歳定年制」の言葉が先走っていますが、
今回の問題は、グローバリズムをどう考えるかという視点が本質的な所在ではないかと感じました。
生産年齢人口の長期的減少で、国内の経済市場は多くの業種業界で斜陽化していきます。
よって、世界のマーケットに着目して経営を考えていくことは当然に必要なことだろうと感じます。

しかし、その際に企業の体質まで欧米型に変えていく必要があるのかどうかという問いかけに
どう答えを出すかということが問われたのではないでしょうか。
そう問題をとらえるならば、人本経営の重要性を説いている立場からすると、
世界に出ていっても大事なことは、日本らしさを喪失してはならないということだと考えます。
「山崎」「白州」に代表されるサントリーの蒸留酒は、
時が経つにつれ、世界中のウィスキー愛好家に絶賛され、品薄状態が常態化するようになっています。
日本人らしいきめ細やかな洋酒づくりが、世界を魅了したのです。
世界標準だったら、面白くもなんともないお酒しか提供できなかったでしょう。

実は、サントリーは非上場を貫いています。
その理由は、質の良い酒造には時間がかかり、
短期的な利益を要求される株式公開に馴染まないからだと説明されてきました。

株式公開を目標にしないということは人本経営の特長の一つですが、
そうしたことを重視してきたからこそ、あれだけの大企業になっても、
人を大切にする企業文化、社風が培われ、
あの厳しい「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の審査基準をクリアできたのです。

コロナ前のインバウンド政策の弊害や日本人でない横綱の品格のなさに対する失望など、
目先の利益にとらわれて、体質を変えていってしまっては、
禍根を残す結果になるということを体験させられました。

学ぶしかありません。わが国をわが国らしく足らしめた文化や伝統をしっかりと受け継ぎ
世界と対峙していくことがなければ、グローバル化は亡国への道となります。

原則をふまえる

年功序列は悪いのでしょうか? 終身雇用は悪いのでしょうか?
労使協調してはいけないことなのでしょうか?

そんな訳ありません。
その特色があったからこそ、わが国は経済大国になっていったのです。
人を大切にするのなら、それらは必然です。

たしかに社会環境は大きく変わりました。
だからこそ、その環境変化にあっても人を大切にする経営を貫けることが、
これからの経営者に求められることですし、
それを実現する経営者が次代の成功者となっていくのです。

いつの時代にあっても、事業を行うために人を雇うのではなく、
人を幸せにするために新しい事業を始めるというのが原則です。
事業ありきで人を雇うのでなく、人のために会社があるのです。
そのことを踏まえずに、利益や生産性を前面に出していくのは、お門違いで本末転倒です。

世の中は、業績軸から幸せ軸へ、はっきりと時代の風が強く吹いています。
そのようなご時世に、逆なでするような発言だったために、炎上したのでしょう。

すぐそこにやってきたアフターコロナの社会で、何を大切にしていくべきか、
改めて考えさせられるいい機会になったととらえておきたいものです。

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