第883号 出光佐三と塚越寛氏

第883号 出光佐三と塚越寛氏

出光佐三と塚越寛氏


「いい会社のイメージというのは私たちの中でははっきりしています。それは例えば、社員が親切だとか、笑顔がいいとか、隣近所に迷惑をかけないとか、よく掃除をして周辺の環境をよくすることに貢献しているとか、これらはみんないい会社の特長としてあげられると思うのです。残念ながら、そういうものを評価する仕組みがいまの株式市場にはありません。だから私は上場は考えないのです。」

明快すぎて、ぐうの音も出ない塚越寛さんの信念です。コロナ禍で経済がガタガタになっているのに、株式市場は日経平均がバブル期以降、30年ぶりに30,000円台を突破するという異常な展開をみせています。誰がどう考えても、もはや実体経済とはまったくリンクしない世界に株式市場は存在するようになってしまいました。

■出光佐三に影響を受けていた塚越寛さん

 塚越さんは、その著書『末広がりのいい会社をつくる』(文屋)においても、

「大規模なリストラで社員に犠牲を強い、会社の株価を高騰させるような株式市場のあり方は、本来の目的である「社員の幸せ」に全く逆行しています。上場企業は四半期ごとの決算を求められますが、これは投資家のためであり、社員の幸せのためではありません。会社経営においては、社員や事業現場、世の中の変化に対して、常に長期的な視点を持たなければならないと思います。このような理由から、上場はおこなわないのです。」

と現在の株式市場に対しては、人を大切にする人本経営にとって害がある存在と認識し、ある意味、敵視していると感じられます。

同書で、「決算に対する私の考え方は、出光興産株式会社の創業者、出光佐三氏の影響を受けています。出光氏は「株式上場はしない」「社員を大事にする」という考えをもった経営者でした。」と注目すべき記述を残されています。

やはりというか、むしろ当然、必然的に佐三と塚越さんはつながっていました。

■出光の悲劇

出光興産は、佐三が頑なに上場を忌避していました。死去後も、後継者となった長男の昭介氏は、佐三氏の人間尊重、大家族主義の理念を実践すべく、非上場企業であることを貫いていきました。しかし、バブル経済崩壊によるダメージで2兆4,000億円の有利子負債を抱え経営が悪化してしまいます。外部資本の導入は必要とオーナーの昭介氏は説得され、渋々説得を受け入れ、2000年より外部資本を導入し、2006年に株式を上場しました。その後、外資系である昭和シェル石油との合併問題を契機に、創業家は事実上、出光の経営から離脱していくことになります。

上場した時点で、佐三の人間尊重の大家族主義の理念経営は頓挫してしまったということが出来るでしょう。創業家の代理人を務めていた元衆議院議員の浜田卓二郎弁護士は「当時昭介氏の顧問弁護士だったら、事の発端になったともいえる株式上場を思いとどまるよう最後まで説得したかもしれない」と回想しています。

創業者が心血注いで守ってきた伝統が、後継者に引き継がれ、永続していくことの困難さを出光の事例は語っているようです。

伊那食品工業においては、よもや同じ轍を踏むとは思えませんが、同社も代替わりし、ご子息が経営者となりました。

引き続き見守っていくしかありませんが、伊那食品工業は、これから先も、日本が誇るべき「いい会社」として、確固たる存在であり続けてほしいと願うばかりです。

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