第856号 精一杯生きる

第856号 精一杯生きる

精一杯生きる


松下幸之助さん、稲盛和夫さん、そして塚越寛さん。

日本で名経営者といえば誰かを問われたら、必ず名を挙げる偉大な方々です。

後世に受け継がれる利他を大事にする生き方は、普遍的な人として大切にすべきあり様を知らしめてくれています。

そして、そうした光を放つ偉業を成し遂げることを実現できたきっかけもまた共通する原体験があるのです。それは結核という病です。

塚越寛さんは結核を罹患し、高校生活は病院で過ごすことを余儀なくされ、もう人並みの社会生活を送ることは難しいだろうといわれていました。しかし、奇跡的な健康回復が起き、伊那食品工業の親会社に就職できたことから、今に至る「いい会社をつくりましょう」のドラマが始まります。働けるだけでこんな幸せなことはないと全身全霊を打ち込む姿が経営者の目にとまり、伊那食品工業の立て直しを託されたのです。

松下幸之助さんも壮絶です。両親、姉兄7人と本人の10人家族でしたが、父親が事業に失敗し小学校を4年で中退、親姉兄の9人は、松下さんが26歳までに姉1人をのぞき、結核で亡くなります。加えて、自身も20歳の時に結核を患います。この時の回想を『決断の経営』でこう語っています。「これは自分の番が来た、来るものが来たな…そのとき医者は、『養生が必要だから、くにへ帰って三カ月ほど養生してはどうか』と言ってくれた。しかし当時の私にとって、それはできない相談であった。というのは、私には帰る家もなく、両親も親戚もない。第一、金がなかったのである。…どうせ同じ死ぬのであれば、養生して寝ながら死ぬよりも、働けるだけ働いて死ぬ方がいい。どうせ人間は一度は死ぬのだ。それはそれでいいではないか。しかし、ただ寝ていて死を待つというのはおもしろくない。働ける間は大いに働こう。」

壮絶すぎます。生きることや働くことに対する意義や重みが強烈です。

稲盛和夫さんは小学6年生のときに結核にかかり、旧制中学の受験に失敗。叔父二人、叔母一人をともに結核で亡くすという“結核家系”で、近所の人たちには、「あそこは結核の血統だ。かわいそうに、和夫ちゃんとももうお別れだろう。」と言われ、自分もそういうふうに思っていたといいます。そのときに、隣の家のおばさんが、これでも読んでみなさいと、「生長の家」の創始者である谷口雅春さんの『生命の実相』という本を貸してくれました。「われわれの心のうちには災難を引き寄せる磁石がある。病気になったのは病気を引き寄せる弱い心をもっているからだ。」というくだりを見いだして、その言葉にくぎづけになったといいます。叔父が結核にかかり、自宅の離れで療養しているとき、稲盛さんは感染を恐れるあまり、いつも叔父が寝ている部屋の前を鼻をつまんで走り抜けていました。一方、父親は付き添って看病を怠らず、兄もそんなに簡単にうつるものかと平然としていました。父も兄も何ともないのに、親族の病を忌み嫌うように、ことさら避けていたのにもかかわらず、自分だけがうつってしまったことで稲盛さんは気づきます。「ああ、そういうことか。避けよう、逃げようとする心、病気をことさら嫌う私の弱い心が災いを呼び込んだのだ。恐れていたからこそ、そのとおりのことがわが身に起こった。否定的なことを考える心が、否定的な現実を引き寄せたのだと思い知らされた。」

■強烈な原体験が人間尊重の精神を宿す

結核という死に至る病に遭遇するという不幸。それを否定するのではなく、肯定的に受け止めて、精いっぱい生きていこうと行動していくことで運が開けていったと、この偉大なお三方は体現しておられます。

翻って、現代は新型コロナという疫病に苛まれています。こんな理不尽なことはないと途方に暮れる人、政策が間違ったと政治家をなじる人、もうこんな商売やめてしまおうとあきらめる人…悲嘆感に包まれている人は沢山いることでしょう。現状が大変なことは確かです。でも、ご紹介した先達に学べば、今、病んでいたとしても、いわんや健康であるならなおのこと、出来ることは無数にあることに気づかされます。少なくとも、命がある限り、今よりもまだ精いっぱい生きることが出来るのです。

塚越寛さんは、そのことを知らしめるために社内の至るところに「100年カレンダー」を掲示しています。そこに必ず明示されている自分自身の命日を意識して、今日という一日を生きがいをもって生きていこうと意識し、行動していくのです。明日、生きていられるのかは神のみぞ知ることです。しかし、今日希望をもって前を向き、命を生かそうとする限り、その生命は永劫に宿り、未来へ運命は開けていくことでしょう。

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