第808号 タニタの個人事業主化についての考察①
2019.11.11
タニタの個人事業主化についての考察①
雇用していた社員を個人事業主化していく株式会社タニタの「日本活性化プロジェクト」が、今後のわが国の働き方のあり方に一石を投じています。
この手の話は、たとえばバイクを使った宅配会社が、配送人を雇用するのではなく、外注先として業務委託する、というような案件などで、たびたび話題になってきました。これまでは、労働者性が排除できないということで、偽装請負であると指摘される問題がほとんどだったといえるでしょう。実際、厳密にそれまで社員だった者を独立事業者として、違法性なく存続させていくことは相当にハードな課題であるといえるでしょう。しかし、2017年から個人事業主化に踏み切ることを陣頭指揮した谷田千里社長は、生産年齢人口が激減していくわが国において、企業や労働者にとって持続可能性を高める真の働き方改革であると、真っ向から主張しています。その取り組みは今年、『タニタの働き方改革』というタイトルで日本経済新聞出版社から出版されています。
人本経営の必要性を訴えてきた当通信としても、この問題について、正面から検討してみたとい考えています。
■タニタの個人事業主化の仕組み
まずは、どのような仕組みで社員が個人事業主として独立していくのかということについて、書籍で紹介されていることをベースに解説してみたいと存じます。
<目的>
第1に社員のモチベーションを高めていくこと、第2にいずれ独立していってしまう可能性のある優秀な社員が会社の仕事をし続けていく環境を整えていくこと、第3に結果として、会社の生産性向上を実現していくこと、これが谷田社長が目指している目的であると解説されています。
これまでの「偽装請負」の議論では、その目的は、会社側にとって都合の良いリストラの手段であったり、社会保険料のコスト削減であったりしたので、それは経営者としてあるまじきことで、けしからんという論調が圧倒的でした。この点について、タニタのそれは、断じてリストラやコストダウンを目的としているものではないと主張しています。
<対象者>
全社員対象。この類の業務委託は、一般的にデザイナーや高度の専門性が必要な職種に限定されていくだろうと想像しますが、タニタでは労働組合から意向をくみ、全社員を対象にしたということです。
<手続き>
社員から個人事業主に切り替わるタイミングは年始となっています。個人事業主として独立を選択しようとする者は、会社へ希望を申し入れ、自分が請け負いたいと考える「業務内容」のたたき台をつくり、会社と当人双方が納得する形で業務委託契約書を作成していきます。その直前まで社員として取り組んでいた基本的な業務を「基本業務」とし、報酬は前年の残業代込みの給与・賞与に会社が負担していた社会保険料を含めた額で設定されていきます。基本業務以外に仕事が発生する場合には「追加業務」として上積みがされます。業務委託契約書において、仕事の範囲、評価基準、報酬との関係を定義していきます。
<契約期間>
会社との合意事項として、独立後3年間は仕事の請負が保障されます。契約期間自体は、本人の意向を尊重して1年ごとに更新し、見直されていきます。
導入にあたって谷田社長は、役員と次のような覚書を交わしています。
『もしも何らかの理由で社長の任を外れることになり、その後の経営陣が「日本活性化プロジェクト」の継続が難しいと判断した場合には中止する。その時点ですでに個人事業主に移行した者で、本人が希望する場合、移行前と同等以上の条件で社員に戻れるようにする』
<タニタ共栄会>
個人事業主となったメンバーは報酬額の1%を会費としてタニタ共栄会に加入できます。加入すると、会社の施設や備品を社員同様に利用、会社の各種イベントに社員同様に参加、共栄会が契約する税理士法人の確定申告についての相談指導や社会保険関係の情報提供などのサポートが得られるようになります。
なかなか工夫がみられます。さて、実際に独立したメンバーはどのくらい出たのか、また、どのようなことを感じているのかというのは一番の注目すべきところでしょう。これは次号でレポートいたします。
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