第734号 大廃業時代、恐るるに足らず

第734号 大廃業時代、恐るるに足らず

大廃業時代、恐るるに足らず

2025年までに平均引退年齢である70歳を超える経営者は245万人に上り、その約半数で後継者が未定とされ、黒字ながら会社をたたまざるを得ない「大廃業時代」を迎えているといわれています。

この状態を放置すれば、2025年頃までの10年間の累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる恐れがあるとされています。

生産年齢人口の減少が人手不足常態の社会を形成してきていますが、後継者も人手不足で事業継続が出来なくなる企業が、今後、続出するとみられます。

総務省「経済センサス基礎調査」によれば、わが国の事業者数は1986年の535万者から2014年の380万者へと減少の一途を辿っています。バブル期のピーク時から、すでに3割減じていますが、今後、さらに廃業予備軍とされている127万者が消えてしまうと、会社の数は40年間で半減していくことになります。

こうした近未来予測を突きつけられると震撼する思いになりますが、救いの手が確実に存在しています。それは人本経営に成功することに他なりません。

人本経営に成功している企業では、事業承継もほとんど成功していると認識できるからです。

そして、さらに業界をよくしていこうとM&Aに乗り出し、傾きかけた会社を救済しているというケースがみられるからです。2社の取り組みを挙げてみましょう。

■伊那食品工業

かつて信州長野には160の造り酒屋があったといいます。しかし、消費者の嗜好の多様化などで日本酒の消費量は減り、今では80と半減しています。

現在も存続の危機にある酒蔵は少なくありません。南アルプスの麓の自然環境と良質な水に恵まれた土地で、地元の酒米を使った「今錦」を醸してきた米澤酒造も、そんな蔵のひとつでした。同社は明治40(1907)年創業の老舗ですが、経営危機に陥っていました。

2014年、救いの手を差し伸べたのが伊那食品工業でした。塚越寛会長は「造り酒屋は村の大切な伝統であり、文化です」と想いを語り、米澤酒造の再生に名乗りを上げました。

■アドバンティク・レヒュース

2016年10月に同業である川崎の産廃業者、三協興産の全株式を取得して再建に乗り出しました。さらに2017年3月には、山形の同業、キヨスミ産研をグループ化いたしました。

現社長の堀切勇真さんは、現在、日本を代表する若手人本経営者のお一人ですが、こうした事業承継でもその精神を貫いています。

キヨスミの全株式取得にあたっては、経営状況を確認し、直接社員と接したうえで「社員の待遇を改善し、幸せにできる」と判断したので実行したと述べられています。

そして、既存社員全員の雇用を継続し、「当社では、会社が最も大切にしなければならないのは社員のしあわせであると考える。社員とその家族が幸せであることは業務に反映され、当然顧客サービス、営業戦略にもつながる。この経営方針を浸透させ、新たな社員の幸せとより高い顧客サービスにつなげていきたい」と抱負を語っています。

経営が傾いた異業種や同業の他社を人本経営で救済し、再建していく――こうした取り組みが大廃業時代の到来とともに多くの業界で広がれば、わが国の健全性を確実に増進させていくことにつながるでしょう。

これからは、人本経営に成功している企業が、自社だけをいい会社にしていくだけではなく、他社もいい会社にしていく、そんな時代が始まったと期待したいのです。

そして、そうした救済をされる前に、自社で人本経営を実践し、成功していくことが、今の経営者に切実に求められていると感じています。

団塊の世代の経営者には業績軸がこびりついている方が少なくなく、幸せ軸に変わることは容易ではないでしょうが、どうか一日も早くこの重要性に気づいてほしいと願うばかりです。

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