第707号 世の中変わった~脱・売上至上主義に成功した「沖縄ヤクルト」

第707号 世の中変わった~脱・売上至上主義に成功した「沖縄ヤクルト」

世の中変わった~脱・売上至上主義に成功した「沖縄ヤクルト」

沖縄の「いい会社」を巡るツアーを先週実施いたしました。この地もまた一段と人本経営に成功し始めている会社が席巻し始めているということを痛切に感じる旅となりました。かねてより2010年前後から確信的に経営の軸を業績軸から幸せ軸へ不断の決意で舵を切り始めている企業群があることをお伝えしてまいりましたが、今回、視察させていただいた沖縄ヤクルト株式会社もまさしくその1社でした。

現在、同社を率いておられるのが入井将文社長。たたき上げから同社の代表取締役に就かれています。人本経営の事例では、オーナー社長もしくはその後継者というケースが多いのですが、言わばサラリーマン社長であってもなんら問題なく人本経営が実現できるのだということを確認できるとても有益なケースです。

■2009年、売上至上主義からの脱却にチャレンジ

ヤクルト本社九州支店から沖縄ヤクルトへ異動となって現職へ赴任された入井社長。多くの会社が、高度成長期に営業力だけでモノを売り、社員を管理し熱意と努力の精神力で結果を出してきたものの、バブル崩壊後、若手社員が「夢がない、希望がない」と退職が相次ぐ状況を目の当たりにしてきました。沖縄ヤクルトでの仕事は、これで最後の任務という決意で脱売上至上主義の経営を貫こうと決意して臨まれました。

新規開拓中心で売上を伸ばすことではなく、生涯顧客づくりに成功していくためには、お客様との信頼関係がなければ、それは実現できないと入井社長は考えました。お客様と信頼関係を築くのは一人ひとりの社員にほかなりません。現在、社員がどんな考えで仕事をしているのか、どんな会社を目指したいと思っているのか、何を課題にしているのか、どんなことに喜びを感じているか、を推し量るために全社員と最低一人につき1時間はかけて個人面談を実施しました。

人本経営の鉄則といっていい、現場との対話をいの一番に実施されたということになります。社員数は150人もおり、手間暇はかかりますが、とても重要なことといえるでしょう。

社員との面談を終えて、現状では一人ひとりのヤル気はあるし、いい人間性をもっていて社員同士は仲がいいことがわかりましたが、会社として目指すものが共有できていないと感じられました。そこで、会社は何のために存在しているのか、しっかりとした経営理念をつくろうと積極的に意見具申をしてくれそうな20名近い役員、社員を集めて『理念作成プロジェクト』を立ち上げ、半年かけて経営理念を策定していきました。

■下がり続けた業績

理念を完成させるまではよかったのですが、現場への浸透が一苦労でした。全体朝礼などで理念を伝えていきますが、頭と体が別の動きをしてしまう感じで行動として定着していかないのです。そうこうしているうちに業績が落ち始めます。目先の売上に目をとらわれず、真にお客様に必要とされる仕事のあり方に業務を変えていきましたから、出てきて不思議ではない現象でした。入井社長自身、経営の質が変わるまで3年程度は業績の低迷はあり得るかもしれないと予測していました。しかし、業績は4年目も回復してきませんでした。さすがに、この経営でいいのかと内心不安になったそうです。

でも、確実に会社の風土が変わりつつあることを感じていた入井社長は、ヤクルト本社役員(事業本部長)や会議の中でも、これまでの考え方の軸をぶらさずに実行したい、と話して了承してもらいました。社員たちも、このままではせっかく社員の幸せを念じて経営の舵を切った入井社長の顔に泥を塗ってしまうことになると、何とか盛り返そうと力を合わせていきました。

■社員一人ひとりを主人公にするミーティング改革が会社を救う

理念を浸透させたいがために、トップダウンで全体朝礼を入井社長が仕切っていましたが、これでは「べき論」になってしまい功を奏さないとミーティングの進め方を一変させました。役職、部署に関係なく6人1組で4か月ごとにメンバーチェンジを繰り返していくオフサイトミーティングを導入していきました。仕事の本質的な課題を自分たちで見出し、その解決策を考え、自ら行動して改善し続けるサイクルをつくろうと図ったのです。この頃から同社では、会議という言葉がなくなり、代わりにワークシェアという概念が出来上がっていったそうです。こうしたヨコの連携をよくしていく取り組みで、ようやくお客様が喜んでくれることを自分たちでしているという自律の風土づくりが図られ、目指す経営理念に一歩づつ近づいていきました。それに伴い、業績も回復していき、今日に至っています。

世の中はリーマンショックの後、本当に変わったのだと今、確実に認識をさせてくれる好ベンチマーク事例ではないでしょうか。

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