ジョブ型雇用で社員は今より幸せになるのか

ジョブ型雇用で社員は今より幸せになるのか

政府が総合経済対策として、職務を明確にして専門性や能力を重視する「ジョブ型」雇用の普及に向け、仕事内容で賃金が決まる「職務給」の採用を促しています。日本で長年続いてきた年功制の雇用形態からの移行を図ると報じられています。

それが新しい資本主義の正体ならば失望

はっきり申し上げて、これは愚策以外の何物でもありません。

「ジョブ型雇用」。何のために仕事があるのでしょうか。

人を幸せにするために仕事がなくては始まりません。

ジョブ型では、多数のポストが用意されます。

そして、挙手をさせてそのジョブに社員が就くことをマネジメントしていきます。

この結果、組織内では当然に競争が発生します。

「ジョブ型」を勧めるコンサルティング会社は、これにより企業は自律自発的な社員がイキイキと働くことができる職場が実現できると宣伝しています。

本当でしょうか。

どう考えても競争の激化は、成果主義を誘引することは目に見えています。

そして、一度就いたポストにしがみつく社員も多く発生させることになるでしょう。

関係の質は棄損されていく

その結果、大切な社内での社員同士の協力関係の質が棄損されていくだろうことは火をみるより明らかです。

ジョブ型雇用の前身である職務給や職務型人事制度は、これまでも年功序列、終身雇用を悪玉にして、何度も提案され、都度、日本企業になじめず尻すぼみになっていった歴史があります。

歴史は繰り返すといいますが、またかという感が否めません。

ジョブ型雇用を推し進めようとする大企業は、グローバル化の進展に対応するために、その導入に踏み切っていると言っています。

メンバーシップ型の雇用をしてきた日本の企業は世界標準でないという認識です。

一見、正論のように聞こえますが、それは日本らしい個性が失われていくということを意味しているように気がしてなりません。

日本らしい個性があったからこそ、わが国は100年以上続く長寿企業を世界で最も輩出する国になっているという事実を思い起こしてほしいのです。

 

参照 日経BPコンサルティング・周年事業ラボ

世界の企業の創業年数が100年以上、200年以上の企業数を国別に調査した。日本は共に企業数で世界1位となった。世界の創業100年以上の企業のうち、半数近くが日本の企業という結果だ。さらに創業200年以上の企業では、その比率は65%まで上がる。世界で最も100年企業が多いのは日本で3万3076社。世界の創業100年以上の企業の総数、8万66社の41.3%を占めた。

 

その制度がより人を大切にする経営を進化させるものとして、導入検討に値するものなのかどうなのか、正確かつ簡単に判断できる方法があります。

答えは伊那食品工業にある

それは、伊那食品工業や未来工業のような人を大切にする人本経営のレジェンド企業が、それを実施しているのかどうかです。

実施していることならば、検討の価値は大いにあることでしょう。

しかし、実施してなければ、どんな流行でもスルーです。

「ジョブ型」はどうでしょうか。

答え=していません。

岸田首相は企業の現場を丁寧に見たほうがいいと進言します。

人的資本に適切に投資してきた会社は、今も明確に年功で終身雇用を機能させています。

それがベストとは思わないが、加齢と共に生活が安定し、豊かになっていくことが叶う幸せな状態をつくるベターな仕組みと疑いがないからです。

年功序列、終身雇用は悪ではない

年功序列、終身雇用が悪なのでは決してありません。それを実現できない近視眼的な企業経営のあり方が問題なのです。

わが国は、残念ながらバブル経済崩壊後、30年間で多くの企業が赤字になりました。その理由が年功序列や終身雇用にある、という認識をしていると本質を見失い、事態はますますよくない方向へ進んでいってしまうことに留意が必要です。

これこそが問題の本質論です。正しい問いかけは「なぜ、わが社は、年功序列や終身雇用が継続できなくなってきているのか」ということです。

そうすると、今の時代に必要とされる魅力的な商品開発が出来ていないことや、そういう商品をつくり出そうと社員の目が輝いていないことなど根本的な「あり方」に問題があると気づけることが多いはずです。その根本の問題解決は、短期的な成果を出すための雇用制度の見直しで実現できる訳がありません。

ジョブ型を導入済み、または導入検討中の企業に導入目的を聞いたアンケート結果によると、 「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」.が最も多く、65.7%と回答したと報告されています。間違っていると断言できます。

人事制度の目的

何のために人事制度があるのでしょう?

わが社が大切にしたい経営理念、そこから派生してくる企業文化や社風をよりよくしていくためです。そうでなければ本末転倒で、百害あって一利なしと言って過言でありません。

「人事制度の変更は組織文化を変更すること」と言い切っているコンサルタントがいますが、認識が根本的に間違っています。組織文化を変更するのでなく、よりよく浸透定着させるために人事制度がなければ、その改革がうまくいくはずがありません。

前述のアンケート結果によると、ジョブ型人事制度を「導入しない」とする割合は28.5%で、その理由は「今の人事制度が自社にあっている」が最多です。今、わが国の黒字企業の割合は概ね3割です。導入しないとした企業割合とほぼ一致しているのは偶然の一致ではないのではないかと思えてきます。

ジョブ型とは、文字通り、その概念は「仕事に対して人を割り当てる」もの。この時点で人を中心にすべてを考えている人本経営とは、水と油です。ジョブ型が、さらに短期思考の成果主義を蔓延させ、不幸な労働者を量産させる結果にならないことを願うばかりです。新しい資本主義の正体がこれならば失望しかありません。(了)

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