改めて論考、「人を大切にする」とは

改めて論考、「人を大切にする」とは

ここ10年で「人を大切にする経営」というワードは市民権を得てきたように感じますが、識者でもそれが日本的経営のことを意味するとされる向きもあるので、本号では改めて「人を大切にする」ということについて深堀をしてみることにいたします。

人とは、経営者、社員、取引先・仕入先・関係会社の社員、それらの家族、お客様、地域住民、株主を指します。

経営者…企業組織においては最も影響力がある存在であることは言うまでもありません。人格、識見に優れていて幸せ軸で経営を推し進めることに本気であることが求められます。そうした資格のある者が経営者に就く企業文化あるいは風習、仕組みがあることが「人を大切にする」を実現している状態です。必ずしも世襲を否定しませんが、上記のような資格がないにもかかわらず、息子だから娘だからと同族で経営者の代替わりをしているのであれば、それは「人を大切にする」とは看做せません。

社員…ここでいう社員は、正社員、非正規社員問わず、雇用されその職場で働くすべての労働者を指します。ここでいう「人を大切にする」とは、まず第一にここで働いていくことで健康増進につながっているか、どうかです。パワハラや過重労働、労災の発生など社員の健康侵害を招くような労務管理をしていては論外です。もちろん現状の業容により出来ることはそれぞれでしょうが、常にやれるところから社員の健康確保や保全に関する施策が継続実行されていることで「人を大切にする」と認識できます。

次に、組織内で起こりがちな優秀、普通、問題という、いわゆる2:6:2の法則については、決して下の2割を切り捨てないのが「人を大切にする」という意です。その層が十分に力を発揮できていないことに対して関心を寄せ、どうすれば今より良くなっていくか改善の試行錯誤を続けていきます。そして少しでも成長の跡が認められれば承認をしていきます。こうして底上げをしていくことで組織全体の活性化をはかるのです。下の2割は、むしろ伸びしろだと考えていきます。そして、上位2割に対しては、表彰や賞与などでの労いや報いは当然のこととして、その結果に安穏とせずに、常に向上心をもって職務に精励していくように人材育成をしていきます。その方法は、対話なのか研修なのかと企業それぞれでしょうが、こうした育成の場があることで、「人を大切にする」というのは、決して人を甘やかすことではないとの組織風土を醸成していくのです。

賃金については、必ず毎年、上昇させていくことが「人を大切にする」ということにほかなりません。人を大切にする経営者であれば、社員の生活保全は経営目的そのものですからどんなことがあっても賃上げする一択で経営努力がされていきます。それを実現していくために、常日頃、どういう会社でありたいのか、ビジョンを示し社員との一体感を醸成する好機ともなるのです。

 

 

取引先・仕入先・関係会社の社員

企業として商品・サービスを提供していくためには、お客さまより距離的に近いのは自社の社員ではない取引先や仕入先、関係会社の社員の皆さんです。この方々と協働をしなければ付加価値を生み出すことができないと人を大切にする経営者は明快です。自社の社員と同様に、より良い関係性を構築しようと気を配ることに余念がありません。まず社内で下請けとそれらの方々を呼称することはありえないでしょう。パートナーとして位置づけ、上下ではなく同等に尊重をしていきます。具体的には、見積りに対して値切る交渉をしたり、極端な短納期を迫ったり、仕事が完遂しているにもかかわらず報酬の支払いを常識外の遅延をする、などといったことは絶対に発生させません。それがこの方々への「人を大切にする」という意です。社内で社員同士の感謝を伝え合うサンクスカードの取組みはよくみられますが、毎年、取引先に感謝状を出している会社もあります。そうした態度で接していけば、先方もこの会社は違うと感じてくれることは自明で、意気に感じてほかの仕事よりも意欲的に仕事をこなしてくれる可能性も高まります。

それらの家族…社員やパートナーの社員の向こうには家族がいます。家族の支えがあるからこそ仕事に心置きなく打ち込めます。また育児や介護、子の成長に伴う様々なイベントも家族がいるから発生します。仕事だけの表層面だけでなく、社員やパートナーの生活に気を配り慮っていきます。こうしたことを雑にしないのが「人を大切にする」の意です

お客様…いよいよお客様の登場です。お客様なくして企業経営は存続できません。しかしだからと言ってすべての人をお客様と認識して、同等のサービスの提供をしようとしては負荷がかかりすぎ社員の健康を害してしまうことにもつながりません。

一番のお客様は、繰り返し、繰り返し購入活動をしてくれるリピーターです。どうすればその状態がつくれるのか、現場の営業担当はお客様との対話に余念がありません。お客様を理解し、今どんなことで困っているのか、どんなご要望があるのか、徹底的に傾聴しようと試みます。そして社内に持ち帰り、開発担当者に情報提供して、商品の改良や新商品の開発につなげていきます。こうしたことを繰り返して、新たな商品やサービスを提案していくことで顧客満足は高められていきます。満足したお客様は口コミで新たなお客様を連れてきてくれます。このようにファンになってもらうための行動が、お客様に対する「人を大切にする」の意といえるでしょう。

地域住民…企業活動をしていくと地域との関りも多かれ少なかれ出てきます。大それたことをする必要はないかと存じますが、それでも日々のなかで地域の人々が「いい会社」だと感じていただけるような活動をしていくことが「人を大切にする」という意です。駐車を前向きにして排ガスを樹木から守ることや、工場や社屋周辺の公道の清掃を社員が率先垂範して行うといった卑近な行動から、地域にある障がい者施設の支援を買って出る、さらには雇用が進んでいない障がい者の雇用を実現するという直接的な社会貢献まで出来ることはたくさんあります。

株主…最後に意識すべき人として株主がいます。なぜ最後かというと「人を大切にする経営」では、上場を目標にしていないからです。その理由は単純で、ここでレポートしてきた点が上場基準として評価対象になっていないからにほかなりません。むしろそんなことをしている暇があるなら配当寄こせと言われるなら本末転倒になってしまいます。それでも株式会社であれば株主という人は存在します。ここでも特色が出ます。それは、社員が株主になるということです。いわゆる社員持ち株制度を導入している事例が「人を大切にする経営」ではよく見られます。上場しないのになぜ持ち株なのかというと、合理的、合法的に配当ができるからです。長期雇用前提であれば長く勤めている間に財産形成の支援もできるという訳です。そして何より株主になった社員は、やはり目線が変わって経営が自分事になってくるという声があることもよく聞かされます。

いかがだったでしょうか。「人を大切にする」ということの意味が少しでも読者の皆様の理解促進につながってくださったのなら幸いです。(了)

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