第1100号 人的資本という欺瞞

第1100号 人的資本という欺瞞

本通信で幾度となく指摘していますが、やはり人的資本経営について、懐疑的にならざるをえません。人的資本経営を謳っている企業で、希望退職という人員整理、すなわちリストラを仕掛けているというニュースが多く報じられているからです。たとえばパナソニック。このページで「パナソニックでは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる人的資本経営を推進しています。」と声高らかに宣言し、人を第一に考えるとしながら、全従業員の5%にあたる1万人の希望退職を募集し人員整理するというのです。記事

資本という捉え方が曲者

人的資本という言葉が登場してきた時、得も言われぬ違和感を覚えたことを今でも思い出します。こう説明がされました。人的資源という概念では企業にとって、人材は消費する「資源(リソース)」でありコストとして扱われます。一方、新しい人的資本の概念は企業にとって、人材は企業価値を向上させるための「投資対象」であり、将来的にリターンを生み出す資産であると説明がされました。要は人件費を単なるコストとしてみるのでなく、利益を生み出す原資であるといっているのです。コストよりは前進したのでしょう。しかし、これではどう考えても人的資本経営は利益至上主義であるといわざるを得ません。まず利益ありきの世界観なのです。つまり明らかに業績軸です。

資本だから減資がある

そもそも資本と捉えるから、減資という選択肢が残り、業績軸の大企業が弊社は人的資本経営といいながら人員削減という減資を実施していると合点がいきます。その目的は、企業の存続のためという訳です。それは理解できます。しかし、その手段が理解できません。経営陣の陣頭指揮が甘く追い込まれたのだとしたら、まずリストラすべきは経営陣でないと社員の納得が得られるはずがありません。さらにリストラ対象に縁があって、数十年、働いてきた中高齢者を対象とすることも違うと思います。多少退職金を上乗せされたとして、職を失い不安定になることは目に見えています。しかも親の介護が発生してく世代ですからなおさらです。どうしても人員整理する必要があるなら、入社歴の浅い新人にお願いすることがまともではないでしょうか。「経営に行き詰まってしまった。存続するためには人員整理が必要なのです。大変申し訳ないが若い皆さんには将来があるし、今の年齢なら転職機会も豊富にあるはずだから、他社へ再就職してもらえないだろうか」これならまだ理解ができます。そして、業績軸から幸せ軸に経営を改めるためにいったん企業規模を縮小したいのでリストラを断行する、ということで100歩譲れます。

リストラ無縁の人本経営

人本の’本’は、決して資本の本ではありません。本位、センター、中心という意です。ですから社員第一主義を標榜します。まずもって集う人の幸せありきが世界観です。関わる人々が幸せを増進していただけることで、リピーターやファンという神様なお客様が生まれ、その人たちによって利益がもたらされ存続する企業になっていくという道筋が人本経営の実践ということにほかなりません。人的資本経営では投資家が増えることを企業価値が高いといいますが、人本経営ではファンが増えることで企業価値が高まると考えます。

そもそも企業は、社会に有益をもたらすために存在することに疑問はないでしょう。よりよい社会の形成のために企業がなければその存在理由はありません。ただ存続のために人々に害をもたらすのであれば、四の五の言わずに、消失したほうが社会の益に叶うのです。会社は公器、今こそ、これを胸に刻んで経営の舵取りを行いたいものです。

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