第1073号 あえて提言 「人的資本経営は人を大切にする経営ではない」

第1073号 あえて提言 「人的資本経営は人を大切にする経営ではない」

東洋経済が2025年2月13日付で「人的資本経営=人を大切にする経営」は勘違いだというタイトルでオンライン記事を掲載しました。記事中において以下のくだりがありました。

人を大切にする経営では「人材=資源=消費する対象」

旧来の「人を大切にする経営」の価値観では、企業にとって人材は「資源」、つまり、その人がすでに持っている能力やスキルなどを「使う」「消費する」対象として捉えられがちでした。引用ココまで

本通信では、何度となく、メディア、シンクタンクが「人を大切にする経営」を誤用している事例が多発していることを指摘しました。この期に及んで東洋経済という影響力あるメディアが明らかに間違った解説をしています。看過できない場合ので、以下の訂正要請をしました。

訂正を要請

人を大切にする経営については、すでに「人を大切にする経営学会」というれっきとした学会が10年以上前に設立され、学術的に「人を大切にする経営」は定義されています。人を大切にする経営では、人材は「資源」と捉えている事実は一切ございません。記事指摘のとおり、人的資本経営が示すところの「資本」でもありません。人を大切にする経営を別称で人本経営としていますが、人本の本は、本位・中心・センターという意になります。企業経営に関わる主要な人材として、1.「社員とその家族」2.「取引先・仕入れ会社・協力会社の社員とその家族」3.「顧客」4.「地域住民」5.「株主」の5人を掲げ、この順番にこれらのステークホルダーと最高の関係の質の構築、すなわち最大の信頼関係、そして最高の幸福度の増進を図ることに心血を注ぐ経営が人を大切にする経営です。人をとことん尊重し実践していくことが、この経営のあり方です。よって消費する対象である訳がありません。正しくなく明らかな誤りです。東洋経済という社会的影響があるメディアが「人を大切にする経営」という用語を使って誤った解釈を流布されては、真に重要な「人を大切にする経営」の世の中への普及促進にとって極めて有害です。速やかな記事訂正を望みます。

記事訂正されず(2025年2月21日現在)

訂正要請に対して、東洋経済から、「返信には3~5営業日ほどお時間をいただいております、今しばらくお待ちください。お問い合わせ内容によっては、ご回答できないこともありますので、ご承知おきください。」と自動応答と思われる返信がありました。問合せ日時は、2025年02月16日となっています。17日から21日まで5営業日が経過しましたが、返信がありませんでした。今後、状況の変化があれば当通信で追記をしていきますが、本執筆現在では訂正はされていません。

誤解の核心

なぜ、このような「人を大切にする経営」についての誤用、誤認識が絶えないのか、その理由の一つは、依然、識者といわれる方々が日本的経営イコール人を大切にする経営であるという妄信があること、よって古い人を大切にする経営に変わって、新しい人的資本経営が有効であると、ことさらに指摘したいからであろうと推測できます。ならば、こちらからあえて言わせていただこう。

人的資本経営は人を大切にする経営ではない

「人的資本経営」という言葉は、2020年に経済産業省が公開した通称「人材版伊藤レポート」を皮切りに広がりはじめたものです。人を大切にする経営学会の坂本光司会長は、かねてより人本経営という言葉を使用されておられますが、2008年のご著書「日本でいちばん大切にしたい会社」の上梓をきっかけに、幸せ軸という確固たる経営のあり方として人本経営は定着してきました。似ていますが、人的資本経営は、人を大切にする経営にあらず、依然、業績軸経営の範疇に軸足を置いており、明確に違いがあります。これまでも当通信で何度も指摘してきましたが、改めてその違いを明確にしていこうと心しました。永続のために実践すべきは、断じて人的資本経営でなく人本経営です。

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