第809号 タニタの個人事業主化についての考察②|2019|新SVC通信|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

新SVC通信

2019/11/18

第809号 タニタの個人事業主化についての考察②

「人を大切にする会社」に関するトータル情報誌
新SVC通信 第809号



タニタの個人事業主化についての考察②


前号に引き続きタニタの個人事業主化「日本活性化プロジェクト」について考察していきます。

2017年に制度が導入されて、初年度8名、2018年11名、2019年8名の社員がタニタを退職し、個人事業主としてキャリアを重ねていくという選択をしたそうです。タニタはグループ全体で1200人の社員がいますが、導入は本社200名を対象にしたということですから、3年で1割を優に超える社員が対象になったということは、会社にとって相当のインパクトがあったとみることができそうです。

書籍『タニタの働き方改革』には、実際に個人事業主になった元社員のインタビューが掲載されています。

■幸福度が高められているか

総じて、退職という決断は勇気がいったが、決断し行動してみて、杞憂であったし、現状は以前よりモチベーション高く働くことが出来ているという様子です。

第1期メンバーは、手元現金が最小16.3%、最大68.5%増加したという結果になったようです。
象徴的な意見として、「タニタが好きな人が手を挙げている」「タニタに還元したい」「企業理念が一番好き」という発言が印象に残りました。

残った社員側の対談も掲載されています。実質、発注者となる各部署の管理職は、対立関係やいがみ合いは今のところないと口をそろえています。そして、うまく関係性を保てている理由として、独立した者が周りに対する思いやりをもって仕事をしていることを挙げ、このような制度は、独立していく側の気づかいやバランス感覚が必要だと述べています。

制度の導入には成功したように感じられます。

谷田社長が言う「幸せに自由に働き、縛られずに死ぬこと」を実現したいという制度の目的、動機が善であるゆえに結果が伴ってきているとみることが出来そうです。

谷田社長は「雇用を盾に個人を囲い込むのではなく、働く人が主体性を発揮できるように支援し、努力に報いる企業を目指している。人材流出を心配するなら、囲い込みではなく、他社から欲しがられる優秀な人材に『やっぱりタニタで働くと楽しい。やりがいがあるから、一緒に仕事がしたい』と思ってもらえること」を目指すとしています。

■成功の条件

こうしてみてくると、成功のためには個人事業主化制度を導入する以前の会社が、相当に人本経営的な利他を大事にする風土が出来ていて、社員同士の相互信頼という関係の質に優れていて、経営者が本気で社員の幸せ実現のために、ありうべき仕組みであると考えて行動していることが必要不可欠な条件とみることが出来そうです。

人本経営に成功している企業は、ことのほか関係会社、協力企業、仕入先との関係を良好にしていくことに気を遣い、共に発展成長していくことを強く志向し、実際、〇〇会といった互助組織を形成している事例にお目にかかることが少なくありません。

坂本光司教授は、企業経営者が果たすべき5人に対する幸せで、1番に「社員とその家族」、そして2番手に「社外社員とその家族」を挙げられていましたが、まさしくタニタは、幸せな社外社員をクリエイトしていく事例なのかもしれないと感じています。

それを感じさせるのは、「タニタ共栄会」の存在です。同会は、個人事業主となった元社員たちに確定申告の相談指導や、社会保険や所得補償などの私保険、個人年金などの情報提供をしたり、メンバーの住宅ローンの保証やサブリースといったサポートをしたりする互助会となっています。こうした組織づくりに力を入れるのも、何を大切にしようとしているかということが現れていると感じられます。

■疑問点

反面、疑問に感じる点もありました。それは「ノルマを持つのは当たり前」とされていること、そして、「社外の仕事はタニタの社内審査がある許可制である」という点です。ノルマという感覚は対等の取引で発生する概念ではないと感じますし、一個人事業者が業務の請負を制限されるのは確実に違法性が指摘されてしまうからです。

端から完璧な制度ができるわけもありませんから、問題事案は十分に対話を尽くし、社員も社外社員も幸せになる方向へ解決していくことを繰り返して改善していけば、次世代の働き方の選択肢として充分に機能していく可能性があるのではないかと当通信では結論づけます。この先も注目していきます。



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