第672号 在宅医療という新しい事業を創造した医療法人ゆうの森|2017|新SVC通信|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

新SVC通信

2017/02/13

第672号 在宅医療という新しい事業を創造した医療法人ゆうの森

「人を大切にする会社」に関するトータル情報誌
新SVC通信 第672号



在宅医療という新しい事業を創造した医療法人ゆうの森



少子化も相当に深刻化しつつあるわが国ですが、一方の極、高齢化も未曽有の状況を呈してきています。そうした激変する社会情勢にあって、世のため人のため先を見据えている経営者は、程度の差こそあれ、自分自身の業界でこれから人が尊重され、持続可能なあり方はいかにあるべきかを模索し、今までにはなかった事業体を創りあげていくことに成功し始めています。

先日訪問した愛媛県の医療法人ゆうの森は、人類が経験したことのない高齢化社会が現実化しつつある現代において、医療に対する社会のニーズの大きな変化を捉え、近未来型の事業創造を行っていました。

■高齢化社会の次にくるもの

同法人が実現しようとしているのは、在宅医療の充実という、まさしくこれからの時代に必要な医療のあり方の実践でした。

理事長の永井康徳さんは語ります。

「2030年代、団塊の世代が75歳の後期高齢者となり、介護が必要となり、そして寿命で亡くなっていきます。つまり超高齢化社会の次にわが国は多死社会を迎えるのです。2010年には102万人だった年間死亡者が、2030年には161万人と60万人増が予測されています。にもかかわらずわが国は人口減少する一方ですから、国として病床を増やす予定がありません。となると60万人分のベッドが足らなくなるのです。」

わが国では、現在8割の人が病院で亡くなっていますが、もはやハード的にこのペースが維持できなくなることは確実なのです。そして、多くの方が出来れば最後は自宅で迎えたいと望んでいます。これまでの医療は、「治すこと」を目指して発展してきましたが、これからは「自然のままに看取る」という選択も必要なのではないか、そして、それを実現できるのが在宅医療である、と同法人では社会的な問題提起をし、これからのあるべき医療法人の形を実現しつつあるのです。

■なぜ3000万円の赤字診療所を立て直すことが実現できたのか

2000年、松山市で在宅医療専門のたんぽぽクリニックを開業し、ノウハウを着実に育て上げていきました。そして10数年が過ぎたころ、以前お世話になったへき地の診療所が年間3000万円の赤字で閉鎖寸前になり、地域の皆さんが不安を覚え、永井さんに何とかしてほしいと懇願し、2つの診療所での経営をしていくことになりました。へき地の診療所には1人のドクターが専任になるのではなく、曜日ごとに交代で担当していくこととしました。それは、それまで培ってきた在宅医療のノウハウが役立つ瞬間でもありました。2つの診療所では共通のITツールで患者情報を常に共有し、毎朝ウェブ会議で医師全員が治療方針を確認し合うなど、交代勤務が可能なシステムを構築することができたため実現したのです。

24時間対応する在宅医療では、全体の情報共有が実現することで仕事のシェアリングが可能になります。誰かに負荷を背負わせて疲弊させるような組織体制では決して持続できません。理想は1人の患者に2つのチームが対応できる体制、そして、「1人の医師について患者50人」という十分にペイできるキャパシティをあえてオーバーするような拡大成長をしない、という経営方針を貫いているのです。

適正な労働時間で、モチベーションをもって働き続けられるように、という人本経営のあり方がここでも確認できたのです。職員の皆さんは、理事長との距離はとても近いといい、大切な対話の質と量が充分に実践されているのだろうということが感じられました。

先進の在宅医療サービスは地域の住民には必要とされますが、業界団体である医師会では残念ながら当初理解がなく、かなり叩かれたそうです。そんな最中、永井理事長ご自身に進行がんが見つかり、闘病生活を余儀なくされましたが、運よく転移せずに健康を取り戻しました。闘病したことで、患者の思いをわかっていなかったと気づかされ、真に患者の立場で役に立つよう、医師会の反発などどうでもいいから患者本位の医療を充実させていこうと、今、使命を全うしているのです。

成功した人本経営の経営者によくみられるように、永井理事長もまた業界全体に自分たちのノウハウが共有できればいいと考えて、研修医の受け入れや、要請に応えて各地へ在宅医療の研修の講師に出向くなど、労を惜しまずに活動されています。このような人本経営者によって、わが国はいい社会がつくれているのだと頭が下がる思いとなりました。


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