第681号 社長が理念の上にいるのか、下にいるのか|2017|新SVC通信|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

新SVC通信

2017/04/17

第681号 社長が理念の上にいるのか、下にいるのか

「人を大切にする会社」に関するトータル情報誌
新SVC通信 第681号



社長が理念の上にいるのか、下にいるのか



小田原で介護サービスを展開しているHSA社に久々にベンチマークに行き、田中勉社長が同社で現在突き詰めてきている取り組みについてお話をうかがってきました。

今回もまた、とてもためになり、考えさせられる名言の数々をいただきました。今週号でシェアさせていただきたいと存じます。

■社長が理念の上にいるのか、下にいるのか

人本経営に成功している企業のやり方は百様ですが、あり方はひとつとこれまでも指摘してきました。自分たちが大切にしていく経営理念を掲げて、思いを強く共有して行動に変えていく理念経営の実践があり方のひとつであると繰り返し述べてきました。

よって理念経営は人本経営の一形態ということになります。今回、田中社長は「社長が理念の上にいるのか、下にいるのか、これは決定的に重要である」といった趣旨の発言をされていました。つまり、経営決定をしていくときに理念に沿った行動をしていくことになる訳ですが、社長が理念を使っているのか、理念ありきで社長も社員と同じ立場で物事を判断しているのか、この違いに留意しなければならないという指摘です。

理念経営の行使に正しい歯止めがかかっているのか、ということを言われている訳です。よく理念研修という題目で社内勉強会が行われている事例がありますが、その際に経営者がどういうスタンスでいるかで大きく分かれてきます。制定した経営理念は、これこれこういう意味があるので、社員たるものは常に心して行動せよ、と号令をかけるスタイルだと理念の上に社長がいるということになるのです。牽引していくためのリーダーシップの発揮として理念経営は好都合です。カリスマといわれるタイプの社長は、実は理念の上にいて、このリーダーシップを取っているケースが非常に多かったのではないでしょうか。

いきおい会社はイケイケの体育会系のノリになりやすく、モーレツ型の社員が増え、長時間労働が蔓延しやすい土壌になってしまいがちです。人本経営では、社長といえども経営理念の下にいる人でなければなりません。経営の民主化といった経営者がいましたが、まさしくその状態です。

経営理念は社長に都合よく使われる存在ではなく、多くの社員が幸せになるために社長も守る存在であることが正しい姿といえるのです。

経営理念の下に社長がいるためには、経営情報がしっかりと公開されている必要があります。それによって、意思決定のプロセスを万人が知ることになり、社長が経営理念にぶれずに行動していると周囲に納得と信頼が広がっていきます。とても重要なことだと改めてマインドセットさせられました。

■働く側の発想で会社をつくっている

働く人が働き方を選択できる制度が自社に出来てきた、と田中社長は語られていました。

人が人を評価するのは同社の経営理念に反するとして平成24年に人事評価制度を廃止したといいます。現在実施しているのは「エントリー制度」で、同社では仕事の事前開示ということで、どのような業務を何時間すると対価としていくら支払われるか、業務内容と労働対価の明示を徹底的に行ってきたそうです。今、働きたい働き方を自主的に決めてもらうのが狙いだそうです。

短時間、作業的な仕事を時給でこなすという選択もあれば、リーダー的な役割を担い事業を切り盛りするようなミッションの仕事を選択するケースもあります。そして、より高度で専門的な仕事をしていきたいと希望する者のために多種多様な研修、教育機会を用意し、学びの探求心を満たす体制をとっています。どんどん伸ばしたい社員にはそれが叶うように、今、仕事は二の次で家族の介護に時間を当てたいという人には、それが自らの選択で出来るように配慮されているのです。

社内には開発促進事業という組織があり、事業企画支援、成長支援、イベント支援といった社員の自主性を促進させるサポートの実現を図っています。人本経営では、管理ではなく支援ということがあり方のひとつですが、やはりそうなっていっているということが確認できました。

■売上高でなく支持高、営業ではなく情報発信

受付の仕事をスマイルクリエーターと呼称して、仕事の意味合いに深みをもたせる取り組みも人本経営で見られるあり方ですが、同社では売上は社会から必要とされた結果であるということで「支持」と呼び、営業は何か押し付けてくるのではなく、社会の役に立つ情報を伝えていくという意味で「情報発信」と呼んでいます。これらはすぐに模倣できそうな取り組みです。

進化するHSA社、これからも目が離せません。


  • 前の記事
  • 一覧へ戻る
  • 次の記事