株式会社オリエンタルランド 東京ディズニーリゾート|企業名|人本経営企業のベンチマーク|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

人本経営企業のベンチマーク

株式会社オリエンタルランド 東京ディズニーリゾート

人本主義の理念経営を貫いてきた ディズニーランド

先週、いい会社づくりの指導をしている会社の社員旅行&社員研修に参加してきました。行先はあのディズニーランド。研修はディズニーアカデミー主催のディズニーゲストサービスフィロソフィーを学ぶというもの。2時間あまりの内容ですが、ディズニーがどのような考え方で経営され人づくりをしているかということが分かりやすく伝わってきました。

研修を受けて感じたことは、ディズニー、すなわちオリエンタルランドは人を大切にする会社づくりを徹底して取り組んできたということへの再認識でした。

二人のインストラクターが交互に掛け合いをしながら、そして全員参加を意識した、まさしくショーのような研修でした。

冒頭「私たちは企業理念を大切にしている」ということから研修がスタートしました。大切にしている理念とは、ファミリーエンターテイメント(親と子が一緒に楽しめる場所)の追求ということです。国境や性別を超え、あらゆる年代の人々が一緒に楽しめるよう、様々なテーマをもつエリアをつくり、そこへショーの観客として人々を招く、ということを実現していくことが創始者ウォルトの企業理念であり、それが今も脈々と受け継がれています。

呼び方へのこだわり

仕事の定義づけ、意味を考えて行動をするということはとても重要なことです。このことが明確になればなるほど、一人ひとりのパフォーマンスが段違いになってきます。ディズニーでは理念を具現化するためにこのことをとても意識しています。パークは‘ステージ’、お客様は‘ゲスト’、そしてお客様のお世話をするスタッフは‘キャスト’すなわち役者という定義づけです。さらにキャストが着ているものはユニフォームではなくて‘コスチューム’、さらに職場のことは‘ロケーション’と徹底します。そうしたことが日常化されていると働く人々の意識が全く違う次元に高められてくるということが想像に難くありません。それがあのパーク内に入った瞬間に伝わってくる独特の空気感を醸し出しているのです。

シンプルな行動基準

理念を具体化していくためにディズニーでも社員が行動するにあたっての価値基準が定められています。1960年代に定められ、今もぶれずに中心軸にそえられています。それは「SCSE」と呼ばれています。大切にしていくことを共通の価値観としている4つの頭文字から取られています。

afety 安全
ourtesy 礼儀正しさ
how ショー
fficiency 効率

優先順位もこの順番で考えて行動することが共通認識とされています。まずは「安全」。事故や危険のない一日、それがゲストをおもてなしするうえでの大前提ということです。最近、遊園地での事故などがニュースで取り上げられることがままあります。しかし、あれだけの集客をしているディズニーでは新聞・ニュースを賑わすような安全管理の不徹底が理由による事故は30年間発生していないということが驚愕といえます。細かな点の気配りについてインストラクターからお話がありましたが、日々大変な努力をし続けていることがうかがえました。

「礼儀正しさ」ということでは、あのキャストたちの「こんにちは」という挨拶。なぜ「いらっしゃいませ」ではないのかということについて説明がありました。通常、お客様に「いらっしゃいませ」と声掛けをするとお客様は「…」と無言で終わるケースがほとんどで会話が成り立たないということでした。でも「こんにちは」と声掛けをするとかなりの確率でお客様からも「こんにちは」と返事が返ってきます。つまり会話のきっかけづくりにするために「こんにちは」という挨拶が交わされているということでした。

また、なんといってもあのキャストの笑顔がディズニーランドの魅力の一つでもあります。これに対してはつくられた笑顔ではなく、自然に笑顔でなければ意味がないと考えていて、何よりも楽しく仕事ができる職場の雰囲気づくりが重要と考えているとのことでした。そのための取り組みは、これまで当通信で取り上げきた会社の事例と重なるところが多々あったのです。



新SVC通信 第486号(2013.06.03)より

ディズニーの製品は何か?

こうインストラクターの方が会場に問いかけました。「ぬいぐるみ」「キャラクターグッズ」…会場から声が上がります。ゲストが喜んで購入する、そうした形となった商品ももちろん製品のひとつであることに違いはありません。しかし、もっと根源的な部分でディズニーでは自分たちが提供する製品は‘ハピネス’であると定義づけしていました。

そして、ハピネスという製品は目に見えないもの、形として確認できないもの、瞬間的に消費されてしまうものであるから、その品質管理は極めて難しいと考えています。

It takes ピープル

目に見えないハピネスという製品が高品質で維持され続けるために、ウォルトの次の言葉を非常に大切にしています。

「人は誰でも世界中で最も素晴らしい場所を夢に見、想像し、デザインし、建設することは出来る。しかし、その夢を現実のものとするのは人である。」

キャストのハピネスがゲストのハピネスになる

この理念から、キャストがハピネスであることこそがゲストのハピネスになるという想いが強く反映されています。ディズニーでは人を大切にする経営が愚直に貫かれてきたのです。

最高の顧客満足実現のために最高に社員満足を高めてモチベーションを極大化していく、これは人を大切にする会社づくりをしている企業事例研究で何度も確認してきたことです。ここディズニーでもまったくきれいにトレースされていました。

続いてインストラクターから紹介されたのも、ディズニーは褒める企業文化を醸成させることに重きをおいている、ということや、人づくりのキーパーソンは管理職ではなく先輩キャストの存在である、という指摘でした。先輩はゲストを迎え入れるように新人キャストを迎え入れるということでした。そして、ディズニーが大切にしている理念と配属になった職場でのSCSEについての徹底的な落とし込みを行っているとのことでした。

会場ではインストラクターの方が以下の質問をされました。

最近、職場の周りの人に「ありがとう」を言ったことがある
最近、職場の周りの人の良いところを褒めたことがある
職場には手本となる人がいる


この問いすべてに該当すると思う人は手を挙げてくださいと参加者に投げかけました。ディズニーがキャストのハピネス度を測るために意識しているポイントのようでした。会場では参加者がいっせいに手を挙げていました。さすがにこの結果にはディズニーの担当者も驚いたようで「皆さんの職場はとても素晴らしいのですね。」と声をあげていました。指導している身としては誇らしい一瞬でした。

さて、SCSEの残り2つについて参考になる考えをご紹介して結びとしたいと思います。

「ショー」については、キャストは特に身だしなみに気を使うということが徹底されているということでした。おしゃれと身だしなみは別のものということが共通認識だということです。おしゃれは自分のためにするもの、身だしなみは相手のためにするものと明確に区分けして、キャストにふさわしい振る舞いをしていこうと意識向上をはかっているということでした。また毎日の仕事をマンネリ化させないように一人ひとりが‘ショーは毎日が初演である’と心がけているということでした。大切な心構えだと共感させられました。

最後に「効率」についてですが、あくまでゲストの満足度を高めるための効率を最優先に、様々な判断を行い、決断を下していくのがディズニーらしさの追求であるということでした。アトラクションを1回でも多くゲストに体験していただくために効率をあげていくには何といってもチームワークをよくすることが大切で、そのための仕事以外でのイベントをとても重視しているということが指摘されていました。これもまたこれまでに見た「いい会社」の特長です。今回、指導先のイベントでディズニー研修に参加するという縁があってその経営を学びましたが、人を大切にする会社づくりにますます自信が持てました。



新SVC通信 第487号(2013.06.10)より

 

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■株式会社オリエンタルランド 東京ディズニーリゾート (上西京一郎代表取締役社長)
世代を超え、国境を越え、あらゆる人々が共通の体験を通してともに笑い、驚き、発見し、そして楽しむことのできる世界。「ディズニーランドは、人々に幸福を与える場所、おとなも子供も、ともに生命の驚異や冒険を体験し、楽しい思い出をつくってもらえるような場所であってほしい…」というウォルト・ディズニーの言葉が基本におかれています。このあらゆる世代の人々が楽しめる“ファミリー・エンターテイメント”を基本理念に誕生したディズニーランドは、それまでの、子供のためのアミューズメントパーク(遊園地)とは全く異なった、新しい“テーマパーク”として出発。東京ディズニーランドも、その理念を忠実に受け継いでいます。

※オフィシャルサイト
https://www.tokyodisneyresort.jp/
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