株式会社たこ満|企業名|人本経営企業のベンチマーク|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

人本経営企業のベンチマーク

株式会社たこ満

たこ満編

「本日開店の心」―その会社の応接室にはそう書かれた大きな額縁が掲げられていました。ここは静岡、菊川にある株式会社たこ満という洋菓子メーカーの会社です。地元では、わざわざ客でどの店もあふれている繁盛店を経営しています。洋菓子でたこ満とはまた人を食ったようなネーミングですが、これは現在の社長の先代である創業者が東京のお菓子屋に修行した際に、初めて食べた酢ダコがあまりにもおいしく、満足にみたされたその時の気持ちを忘れまいと社名に命名されたのでした。まだわが国が貧しく食料も十分になかった昭和の初めの頃の話です。

先代から引き継いだ現在の経営者である平松季哲社長は、順風に会社を拡大させていくことになりますが、1980年浜岡の出店第一号開店と同時に転機を迎えます。客足は順調に増え売り上げは伸びています。しかし、離職者が後を絶たないのです。急増する受注に対し社員に無理をさせたのが祟ったのです。毎日のように社員からの辞表が届き、気がつくと工場の半数近くの人間が去っていきました。そして、決定的なことが起きます。社長が修業時代の先輩であり信頼するキーマンまで退職したいと申し出てきたのです。社員皆の心が離れてしまったのです。

業績好調下での大量離職、これでは経営は成り立ちません。平松社長は大きなショックを受け、もう店も会社経営も辞めてしまいたいと眠れぬ日々を過ごします。そんな苦悩が続くある夜のこと、「結局、一人の社員も幸せにできていない」ということに愕然とし、決定的なことに気がつきます。『会社がいくら大きくなり社員が増えたとしても一人ひとりの社員がこの会社にいてよかったと思えるような職場でなかったならばついに人は辞めていってしまうだろう。そして、いくら出店をして一時的にお客様が増えたとしてもその一人ひとりのお客様が本当に満足してくれなかったら二度と店に来てくれないだろう。』

この気づきが、たこ満の経営理念「一人のお客様の満足と、一人の社員の幸せ」を生み出しました。以降、この理念を実現するため、社員やパートさんが人間力の向上、技術の向上に努め、共に学び、また成長し、お客様から選ばれる人と企業となり、社会貢献していくことを目指し、愚直な理念経営が実践されていきます。

経営理念に基づき人づくり経営の実践

理念経営に経営革新をして以降、たこ満では徹底的に人づくりにこだわりを持つようになります。とりわけ採用した新卒に対する教育には注力しています。約2ヶ月にわたって行われる新入社員研修では、1~2年先輩の社員がパーソナルコーチとしてたこ満スピリットを伝承していきます。その間にやりとりされるコミュニケーションや学びを各自研修ノートに書き続けていくとのことですが、それが全員4~5冊にもなるという濃さの教育をしているのです。

研修は、複数の合宿を経て2ヶ月後、卒業テストというクライマックスを迎えます。朝8時30分より行う商品説明のテスト・たこ満心得のテスト・接客の基本のテストにパスした後、研修の成果の発表です。今まで研修してきたことへの思いやこれからの仕事に対する決意などを心からの気持ちで発表しないと、なかなか最終合格が出ません。例年、1人目の合格者が出るまでに3時間ほど経過するといいます。そして、全員が合格するのは19時頃になるそうです。受け入れる会社とこれから働く社員の心の底からの思いが交錯し、最後は涙・涙の発表になるのだそうです。そして、研修最後にはご両親から新入社員へ宛てた手紙が朗読されます。思いもよらない手紙に新卒社員は大感激、感動します。

また、大量離職の教訓から同社では社員とのコミュニケーションの増進に徹底的に気を配っています。パートを含め全400人にもなる社員全員が毎日日報を書き、それを早朝、平松社長がすべてに目を通したうえで、デイリーニュースなる手書きのメッセージを発信しています。並大抵な努力では出来ませんが、もう20年も継続されているということです。自分のことを知っていてくれている、気にかけてくれている、この安心感は絶大なものがあるでしょう。

こうして理念経営は定着し、現在では、売上高24億42百万円(平成20年6月)、経常利益1億27百万円(5%)、自己資本比率80%という堂々たる優良企業に成長しています。地元では「いつまでも私達の自慢できる店でいてほしい」となくてはならない愛される店になっているのです。

たこ満事例からの学び

健全に良質な経営を実践するにおいて、より大事なことは、目標の前に目的、理念が明確にされた土台を築くことが大切であるということ

すなわち、何のために経営を行っていくのか、当社の存在理由は何か、すべてに優先されるべき価値観は何か、これを正しく自然に問うて全社員と共有化するということが本来あるべき経営の姿であるということ


まさしくこれが理念経営というような事例であるといえるでしょう。経営理念を立て直して以降、社員のモチベーションを高める経営人事を実践し、安定成長した同社の軌跡をみると改めて理念経営の重要性を認識せずにいられないと感じるのです。


新SVC通信 第342号(2010.06.28)より

 

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■株式会社たこ満(平松季哲代表取締役)
静岡県菊川市に本社がある菓子メーカー、同社が経営する直営店、または同社が製造販売する菓子の名称である。初代社長が東京都に修行に出た際、奉公先で初めて食べた酢蛸のおいしさに感動し、この酢蛸以上の満足を顧客に伝えたいと考え、「たこまん」と命名した。

※オフィシャルサイト
https://www.takoman.co.jp/shop/
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