でんかのヤマグチ|企業名|人本経営企業のベンチマーク|株式会社シェアードバリュー・コーポレーション

人本経営企業のベンチマーク

でんかのヤマグチ

でんかのヤマグチ編

当通信318号で坂本教授が景気連動型企業・構造的不況型企業の5つの言い訳、すなわち、(1)景気や政策が悪い(2)業種・業態が悪い(3)規模が小さい(4)立地が悪い(5)大企業、大型店が悪い、ということを理由にする経営者は甘えていると指摘されていることをご紹介いたしました。そして、その事例として酒店の話を取り上げました。本号では、久々に「理念経営実践企業の研究」シリーズでまったくそうした言い訳をしていない会社があるということをご紹介していくことにしましょう。

株式会社ヤマグチ(でんかのヤマグチ) 会社概要

 創業: 1965年 
 資本金:1000万円
 売上: 12億円(2008年3月) 
 社員数:53名(うちパート10名)

株式会社ヤマグチ(でんかのヤマグチ)は、東京は、町田にある家電販売会社です。

もともと松下電器系列の販売店で、いわゆる電器屋さんです。酒店同様、町の電器屋は家電量販店に席巻され、あっという間に淘汰され、その姿を消して行きました。しかし、でんかのヤマグチはしっかりと今も町に息づいています。

その秘訣は価格にあります。安売り?いえいえ逆です。“高売り”で存在しているのです。

例えば、ある50型のプラズマテレビは価格.comでは199,980円という価格が最安値になっていますが、この店ではなんと458,000円という値付けがされています。このようにほとんどの電化商品は最安値の倍近い設定になっています。にもかかわらずコンスタントに商品は売れ続けているのです。

そんなことありえないと思うかもしれませんが、事実なのです。今、価格競争で苦しんでいる中小企業は少なくないことでしょう。しかし、価格で勝負しなくとも顧客から選ばれる道は確かにあるということをこの会社は高らかに世に知らしめてくれています。なぜ、お客様は高いお金を出してまでここで買うのでしょうか。

経営理念:でんかのヤマグチは当店を利用していただく大切な大切なお客様とお客様の為に働く社員のためにある

上記が同社の経営理念です。これを履行するための行動指針が徹底されています。

 1.お客様に呼ばれたらすぐトンデ行くこと
 2.お客様のかゆいところに手が届くこと
 3.お客様に喜んでもらうこと
 4.お客様によい商品で満足してもらうこと


店の看板にはこう大きく記されています。「電球1個!よろこんでトンデ行きます。」この言葉通り、お客様から些細なことでも呼ばれたら文字通り飛んで行きます。例えば、「テレビ番組の録画予約の仕方がわからない」と電話がかかれば馳せ参じ、「タンスの移動を手伝ってほしい」という要望にも笑顔で迅速に対応します。さらには水回りの修理、果てには旅行中のペットの世話までしてくれるのです。商品のフォローサービスという次元を超えた徹底的な顧客奉仕をしているのです。パソコンなどの操作がわからず、家族に聞いても丁寧に教えてくれないというケースが往々にしてあります。そんなときに親切この上ない応対をしてくれたら、顧客はそれは高い満足感を得ることでしょう。そういう機械に弱い層、つまり高齢者がこの会社のお客様です。顧客の平均年齢は64歳だといいます。

即日修理訪問・全メーカー修理対応・修理中の代替機貸出・即日配達などをお客様との約束として、サービスも徹底しています。そして、「両替OK」「駐車場開放」「誰でもトイレサービス」「店内電話利用サービス」「店内コーヒーサービス」「雨の日傘貸出サービス」、さらに、「カツオ一本まつり」のようなイベントを毎週末に開催するなど、地域に対しても非常にやさしい取り組みをしています。愛され、なくてはならない店になろうということを徹底して商売をしているのです。しかし、顧客に迎合し媚を売っているのではありません。「過剰な値引きを要求」「過去にトラブルがあった」「過去5年に1万円以上の購入がない」という客はすべて切るという方針を徹底しています。社員にいやな思いをさせないということを徹底しているのです。そうでなければ心から笑顔で仕事は出来ないでしょう。パナソニックでもここまで社員にやる気のある店をみたことがないと舌を巻いているといいます。

でんかのヤマグチでは96年に売上拡大路線を捨て、粗利益重視型に経営方針を変えています。売上は16億円から12億円と3/4にダウンサイジングしましたが、粗利益率は25%から38%へと右肩上がりで改善してきています。ヤマダ電機など家電量販店の粗利益率は25%といいますから、いかに優れた経営体質になっているかということがわかります。2008年3月期の最終利益も2992万円で前期比41%増。過去3年で4倍になったということです。

競合が他にないのではないかと思われるかもしれませんが、ご存知、町田市は、東京のベッドタウンであり人口約42万人が密集し、量販店にとって草刈り場になっています。町田駅周辺には、「ヤマダ電機」「ヨドバシカメラ」「コジマ」「ノジマ」「ジョーシン」「ソフマップ」などがひしめき合う激戦区なのです。

そのような悪環境下でも揺るぎない理念経営と真心のホスピタリティサービスでしっかりと地元の高齢者から支持をされ、選ばれているのです。まさしく顧客と相思相愛のエンゲージメント関係を築くことで不当な価格競争の障壁を乗り越えることができるということをでんかのヤマグチは教えてくれています。



新SVC通信 第323号(2010.02.08)より

 
 

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■株式会社ヤマグチ(山口勉代表取締役)
1965年、東京都町田市に「でんかのヤマグチ」をオープン。現在に至る。「お客様にトコトン尽くし、心の商いを実践する」をモットーに、独自の取組で、相次ぎ進出した家電量販店に対抗。店舗自体は売場面積150坪程度と大手量販店には敵わないが、地域に密着し、独自の顧客管理手法で、お客様の絶大な支持を得ている家電店であり、テレビ、雑誌など多くのマスコミに取り上げられている。

※オフィシャルサイト
http://d-yamaguchi.co.jp/
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